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映画・演劇のレビュー

瀧羽麻子『色は匂へど』

2015-03-11 19:54:25 | その他
主人公は、京都麩屋町(先日芝居を見るために京都に行ったから、ついでにこの小説の舞台を歩いた)で小さな和食器店を営む女性、紫。彼女に無邪気に大胆に好意を寄せてくる調子のいい(胡散臭い)15歳も年上の染物師、光山。30代のひとり身の女性と、50代のプレイボーイ。まるで接点のない2人が恋に落ちそうで落ちないという小説。そう書くと、「なんだ、それは!」である。京都を舞台にして、そんな大人の恋を描く。そういう意味では瀧羽麻子が今まで書いてきた作品とは一線を画する。(というか、この本を含めてまだ4冊しか読んでないけど) 

小説は染物の世界を扱う。男の仕事だ。女は小物を売る店をやっている。京都の街中の片隅でひっそりと生きている。そんな女が、調子のいい中年男と出逢い、翻弄される。好きになるのではないけど、気になる。やがて彼の過去を知り、やはり、気になる。そういうのを、好き、というのじゃないか、と思う。(彼女も、僕も)

でも、それ以上踏み出せない。もどかしくない。こういう男を好きになるのはよくないよ、と僕が思う。(彼女も。)単純な恋愛小説ではない。恋愛にはならない恋愛小説なのだ。

どこにでもありそうな、でも、たぶん小説のネタにはならないようなものを、ちゃんとネタにして丁寧に見せていく。このしっとりとしたタッチが好き。京都にもぴったり。安易にかかわらないほうがいいけど、こんな男は嫌いじゃない。(これって、廣木隆一監督の『娚の一生』と同じパターンだ。ということは、映画化したなら、主人公は榮倉奈々と、豊川悦司ということで。)

何も起きないお話で、どこまでも引っ張っていくって、面白い。こういう小説や映画が、今はいちばん好き。確かに今までの瀧羽麻子とは一味違うけど、このタッチの軽さは彼女らしい。これを重くやられると、辛気臭くなりつまらない。古臭い話なのに、こういうふうに見せるとなんだか新しい。


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