たまたま、こんな凄いものを見てしまったこと(見ただけなのに、)の衝撃。言葉もない。中国の一人っ子政策のドキュメンタリー映画ね、という軽い気持ちで見始めたのだけど、途中から緊張で震えだしたくらい怖かった。ゴミ捨て場の山に無造作に棄てられてある赤ちゃんの死体。それもたくさん。そんなのが現実にあった。つい最近のことだ。一人っ子政策は1979年から2015年まで続いた。
5,6万人の中絶(死産)に立ち会った(殺した)という助産婦(この映画の監督であるナンフー・ワンを取り上げた女性)の証言。人身売買される子供たち。政府の役人たちが仲介する。中国からの養子としてアメリカに送られる。女の赤ちゃんなら殺す。道端に捨てる。さりげなく語られる衝撃的なできごと。想像はした。悲惨な出来事も多々あったはずで、知っていたこともある。でも、現実はそんなものではない。
ここに描かれることは、あの国であの頃ふつうにあったことで、この映画は家庭用ビデオで、家族や、親戚、知人にインタビューしていき、さりげなく雑談のように、昔話としてそれをカメラに収める。知らなかったことが明るみに出る。これは告発ではなく、自分(たち)に起きた事実を知るための旅だ。ナンフー・ワンは幼い息子を連れて中国に里帰りをする、その記録というスタイルでこの映画をひとりで撮影した。命がけの撮影だった。ほんとうのことを知りたかった。それだけ。
一人っ子政策を取り上げた映画なら今までもあった。昨年見たワン・シャオシュエイの『在りし日の歌』やピーター・チャンの『最愛の子』という傑作でも取り上げられていたが、この映画は想像を絶する。僕たちはこのドキュメンタリーを通して一人っ子政策の歪みのほんの一端を垣間見ることになる。だが、それがこんなにも恐ろしい。これが一端でしかないことが恐ろしいのだ。この背後にはどこまでも深い闇が広がっていることは事実だ。
ラストのふたりっ子政策のプロパガンダのシーンを見ながら、もうこれはないわ、と思う。あの国の怖ろしさを改めて痛感する。