習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

三人娘『楽屋 流れるものはやがてなつかしき』

2018-09-04 08:30:06 | 演劇

意図的にとてもキタモトさんらしい作品に仕上がっていて素晴らしい。作品を自分の世界へ強引に引き込んでいくのではなく、作品のなかにあるものをきちんとみつめることで、そこに自分の切り口を見出していく。戯曲を読み込むことで、糸口を切り開いていく。そして、この作品をキタモト世界に染めあげる。それを力業ではなく、自然体でやってしまうのが彼の凄いところだ。「戯曲を忠実に上演すると、夢幻能になる」というキタモトさんのことばが出来上がった作品を見事に表現している。能舞台を模した空間でいくつもの作品を作り上げてきた彼らしいアプローチであり、そこには無理はない。

 

「生者と死者のディスコミュニケーション」という当日パンフにある言葉もこの作品の本質を的確に言い表している。「そんな不毛なものをみせてどうするのか」というツッコミは不要である。そこにこそ、この作品の大切なものがあることは、明白なのだから。生者と死者はそれぞれ別の場所で生きている。たまたまこの同じ楽屋を共有しただけの話で、これは生者ミーツ死者でも、その逆でもない。だからこれは、生産的な物語ではなく、彼女たちがそれぞれ自分の世界に閉じこもっていく、立ち止まったままの物語なのだ。

 

だが、それなのに、これはこんなにも感動的な芝居になる。なぜなら、楽屋を共有する4人の女たちはそれぞれが自分をしっかりと生きている(死んでも、なお)ということが、伝わるからだ。そんな彼女たちの愛おしい姿がしっかりと目に焼き付く、そんな芝居になっている。ゲストである生田朗子さんを含め4人がちゃんと自分をそこにさらけ出しているのがいい。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『カメラを止めるな!』 | トップ | 畑野智美『水槽の中』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。