先週唯一見た芝居だ。時間もなくて書いてなかった。酷い風邪をひいて2週間映画も芝居も見ていない。仕事と母親の介護だけは休めないからしたけど、それ以外は何もしていない。(嘘、通勤の往復の電車では読書をしている)そんなこんなで、ずっとパソコンも触ってなかった。少しこの芝居のことも書く。
これは渾身の力作である。公演最終日は超満員で立ち見すら困難なくらいに観客が押し寄せた。開演15分前に着いたときには、時遅く、席はもうなかったので、壁によりかかって見ることになった。咳は止まらないし、実はまだ熱っぽかったから、帰ろうか、とも思ったけど、わざわざ仕事の帰りに寄ったのだから、(日曜日なのに仕事は休めない)と思い、見始めた。しかも、2時間半の大作である。だけど、見てよかった。作り手の想いが抑えた芝居からしっかりと伝わってくる。溢れそうになりながらも、零れることなく、端正に淡々としたタッチを乱されることなく、綴られていた。こんな人が居たのか。そのことを知る。それだけでもいい。
こういう芝居は、どうしても、想いばかりが先行して、観客がついて行けなくなる場合が多々ある。そこに温度差が出来たら、よくない。演出の林田時夫は、冷静に事実を丁寧に追いかけていく。それを主人公を演じた寺島由浩は体現する。熱くなりすぎることなく、現実をしっかり受け止めながら、前進していく姿を描く。29年の生涯を描く伝記劇ではなく、ひとりの男がどう生きたかを見つめる。
最後まで声高に叫ぶことなく、静かな芝居である。それでいい。そこから観客は「彼ららの抱いた想いを知る事になる。作為的な演出を排して、事実をみつめていく。そのあまりの正攻法に作り手の覚悟を知る。だから僕らも襟を正して芝居と向き合う。少し疲れたけど、いい芝居を見たという満足感は残る。