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映画・演劇のレビュー

柚木麻子『本屋さんのダイアナ』

2015-03-13 19:23:56 | その他

『笹の舟で海をわたる』を読み終えた。最後の展開は予想外だが、納得する。40年の歳月の中で、ふたりの女性が支えあいながら生きていく歴史を通して、どこにたどり着くのか興味シンシンだったが、思いもしないどんでん返しにはならなくてよかった。復讐とかはないよ、と思いながら、でも、終始ドキドキしたには、風美子の想いがどこにあるか、見えないからだが、左織の不安は疎開先での出来事に起因するだけではなく、生きていくということの不安だ。行き着くところは、人は所詮ひとりだ、という当たり前の事実。でも、そのことに気付いた時少しほっとする。彼女だけではなく、みんなそうなのだ。多かれ少なかれ。だからこそ、支えあうことが必要なのだ。

『本屋さんのダイアナ』を思い出した。先月読んだ本だ。そう言えば、この傑作について、ここで書いてなかった。これもまた、2人の女の子の成長物語で長い歳月を描く。こちらは5年。小学3年の出会いから、22歳まで。

上手くいかない人生について。お互いの環境や、理想と現実を思い悩み、嘆きながらも成長していく。とてもいい。大穴(と書いて、ダイアナと読ます)なんていうあり得ない名前を付けられた少女は、その名前のせいでいじめに合う。3年の時、同じクラスになった彩子はそんな彼女をかばう。ダイアナはアンの心友(親友)で、素敵な名前だわ、と言う。ふたりは親友になる。

幸福だった5年間、別々に生きた10年間。そして、再会。一緒に成長した時代と、別々の場所でそれぞれ成長した時間。全体は6章からなり、その中で相互のエピソードを交互に見せていく。だから、全部で12のエピソードが描かれていく。再び言葉を交わすようになるラストがうれしい。

子供が大人になるまでを丹念に描き、彼女たちの夢と挫折を通して、それぞれの時代の記憶を呼び覚ましてくれる。大人の目から見たなら、特別なことではなくても、彼女たちにとっては大切なことがここには詰まっている。

もちろん、彩子がレイプされるところなんか、衝撃的だが、そんなことも含めて、日常のスケッチの中に収まっていく。痛みに耐えて生きていかなくてはならない。集団の中で生きるためには自分を偽らなくてはならない。小学生でも、大学生でも同じなのだ。その事実に衝撃を受ける。

ハートウォーミングのように見えて、これはかなりハードなお話でもあるのだ。だいたい冒頭のいじめについて描く部分がそうじゃないか。ほんのちょっとしたことが、子供たちの心を傷つける。というか、ほんのちょっとしたこと、なんかじゃない。それがトラウマになる。そういうところも『笹の舟で海をわたる』と似ている。同じように、ふたりの少女が生きた時代を描くこの2作品は、いずれも劣らぬ傑作だ。


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