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映画・演劇のレビュー

『90歳。何がめでたい』

2024-06-21 14:54:00 | 映画

現役90歳の草笛光子が佐藤愛子役で主演する。こんな映画が作られるような時代がやってきた。監督は前田哲。彼ならこんな(どんな)題材でも上手く料理する。だがそれは器用な職人監督ということではない。この題材ときちんと寄り添って必要なものを提示する。彼の誠実さの賜物である。

 だいたいエッセイの映画化って難しいはず。ストーリーを組み立てにくい。しかも今回は作家本人を主人公にして、ほぼ現役で活躍中の佐藤愛子本人を描くという枷がある。それをノンフィクション・スタイルでコメディにするなんて至難の業。しかし草笛光子を描くこと(結果的に佐藤愛子を描くこと)でそれを可能にした。
 
映画の最初にはなんと「草笛光子90歳記念映画」(生誕90周年記念映画だったかも)と出る。最後には「佐藤愛子は100歳になった」という字幕が出る。こんな映画はない。映画の上映時間は99分。前田監督は明らかに意図的にこの尺に無理から収めた。(たぶん)90歳から100歳という時間を視野に入れた。
 
存命する本人を主人公にして、原案となっているエッセイと本人の私生活をフィクションのコメディにして描く。佐藤愛子だ、と納得させて、映画としても楽しいし、笑えるし、元気にさせてもらえる軽いタッチの映画。ハードルは高い。だけど、甘い安易な映画にはしない。仕事にかまけていた編集者はラストで妻と安易に和解するではなく、きちんと離婚を受け入れることになるし。
 
90歳になり、断筆宣言をしている佐藤愛子のもとにやって来てエッセイを依頼する50歳になり周りから疎まれるベテラン編集者は、まともに彼女の本を読んだこともない。だけど、しつこく粘って連載を引き受けてもらう。ここまではなんか安っぽい展開で少しウンザリ。わざとらしい唐沢寿明の芝居も含めて。だが、映画はギリギリでなんとか無事着地した。
 
映画の軽さと90歳の元気さがすべてだ。そのことによって50歳のくたびれた男は元気を取り戻すことになる。これはそんな映画である。

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