最近、妻が借りてくるので、韓国映画ばかりDVDで見ている。ここには書いている暇がないから書けないがその一部を紹介。まず1本目、『弁護人』はソン・ガンホ主演。1980年代、軍事政権下の韓国。国家保安法違反の容疑で逮捕された青年たち。警察による不当な逮捕、拷問。国家に対して、体制に対して、断固としてNOと言う弁護士の戦いを描くヒューマン映画。韓国で大ヒットした作品らしい。前半は、コミカル。後半は一転して悲痛。見ていてあまりにつらすぎて、スクリーンから目を背けたくなるほど。バランスが悪い。確かにいい映画だとは思うけど。
2本目は『造られた殺人』は、発想が面白く、思いもしない展開に驚くけど、これもバランスが悪い。しかも、リアルじゃないから、突っ込みどころ満載。もう少し緻密の話を展開させたなら、傑作になったはずなのに、惜しい。前半のコミカルなタッチも(音楽の使い方も)なんか、ヘンだ。
そして、今日は『新感染』である。これも韓国で大ヒットしたゾンビ映画なのだが、従来のゾンビものとはいささか趣が異なる大作映画だ。ソウルからプサンに向かう高速鉄道(日本の新幹線ね。邦題はそこと掛けてあるのだが、なんだか安易)その列車の中が主な舞台となる。原因不明の何かによって人々がゾンビ化する。ソウル駅周辺が感染している。そんな中、何事もなかったかのように、ソウル発プサン行きが発車する。その瞬間、暴徒と化したゾンビが車両を襲う。走り去る車両の中から人々は追いかけてくるゾンビを見た。
もう何が何だかわからないまま、逃げるしかない。でも、列車の中だから逃げ場がない。これって、ポン・ジュノの『スノーピアサー』にも少し似ている設定。そこからはノンストップである。
一昨年の日本映画『アイ・アム・ア・ヒーロー』も大作ゾンビ映画だったが、今何故、ゾンビなのか、なんて考えさせられる。この2作が、日韓で、ほぼ同時期に作られたのは、たまたまなのだろうが、どちらも、ホラー映画ではなく、わけのわからない恐怖が突然自分たちの日常を襲いかかり、世界が崩壊していくというパターンだ。それって、アメリカのTVシリーズ『ウォーキング・デッド』の流れを汲んでいるのか。
これはまず、エンタメ映画としてとてもよく出来ているから、2時間はあっという間の出来事だ。凄い勢いで襲ってくるゾンビたち、なんとダイブしてくるのだから恐れ入る。必死に逃げる。走る、走る。高速鉄道の車内という逃げ場のない空間で収まらない。途中の駅でのゾンビとの戦いも含めて、あの手この手で攻めてくる。とても面白かった。
だが、よく出来ているだけに、ここに描かれる恐怖がやけにリアルだ。しかも、救いようがない。ラストも決してハッピーエンドというわけではない。ソウルは壊滅し、そこだけに止まらない。なんとかプサンは死守できているけど、それだけのことだ。この国がどうなるのか、無事に事件は解決するのか、わからないまま、終わる。細菌による感染で異常事態が生じるというパターンの映画は今までだって、たくさんあった。ただ、日常のすぐ先に世界崩壊につながる恐怖があるということが今の時代においてはやけにリアルなのだ。十分あり得る。
映画は説明なんか何一つしないまま、どんどん突き進む。だが、そこで主人公の父親とその娘のドラマを中心にしているのがいい。単純なアクションにはならない。乗り合わせた乗客たちの人物描写も、パターンの描写も含めて、描き方が実に上手い。そして、彼らが終盤どんどん死んでいくところも、情け容赦なく凄い。
てんこ盛りの娯楽映画として、同時に社会派映画としても、よく出来ている。これは最初に書いた2本の力作とは違い、とてもバランスがいい。これが成功例だ、といいたいわけではない。失敗を怖れずいろんなアプローチをする韓国映画のエネルギーに圧倒される、ということが言いたいのだ。