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映画・演劇のレビュー

原田マハ『永遠をさがしに』

2012-01-10 23:06:15 | その他
 いかにも、な小説だ。でも、なんか嵌ってしまう。どんどん読んでしまうし。だが、このパターンに則った感じがちょっと、鼻につく。

 11歳の少女、和音が両親の離婚に傷つき心を閉ざしてしまう。それから4年。母に続いて今度は父もいなくなる。自分は天涯孤独だと思う。そこにわけのわからない女、真弓さんがやってきて、自分はあなたの新しいお母さんよ、なんていう。彼女は和音の父親と再婚したからだ。彼女と父親が一緒にボストンに行く、というのならわかるけど、自分と東京に残るようだ。はぁ、って感じ。しかも、彼女は今まで自分が知っている価値観から完全に逸脱している。想定外の女だ。だが、そんな彼女と一緒にいるうちに、和音の頑なだった心がだんだんほぐれて来る。この話のパターンは悪くない。

 ただ、後半になって、いろんなことが明確になってからである。つまらない。なんか説明しすぎ。しかも説明多いし。16歳の誕生日に母からの手紙を貰い、読む。ここからだ。話をもう少し曖昧なままにして欲しかった。あんなふうにすべて簡単に説明し、簡単にチェロに戻ってほしくない。これでは話がどんどん萎んでくる。

 先日のソフィア・コッポラ監督の『SOMEWHERE』も11歳の少女が両親の離婚で傷つく話だった。でも、彼女は何も言わない。母に置いて行かれ、父と過ごす時間の中で自由にふるまっているように見せる。でも、そんなのはポーズだ。不安と孤独を抱え、本当は倒れそうだ。でも気丈な彼女はそんなそぶりも見せない。だから、父親は気付かない。彼女は自分の心を隠したまま父との時間を過ごし、サマーキャンプに行く。父親は彼女との時間を通して、自分の生き方を見つめ直す。だが、彼は彼女の気持ちなんかまるで理解してない。

 この映画と較べると、この小説は甘すぎ。同じようにセレブのお嬢さんを主人公にしながら、その差は歴然としている。原田マハはどうしてこんなにも説明が大好きなのだろうか。説明しなければ落ち着かないのか。人間の心はこんなふにわかりやすいものではない。もっと複雑で、わがままだ。そこを描かなくてはリアルではない。予定調和なお話はそれ以上のものを生まない。

 11歳の少女が16歳になり、周囲の人たちに助けられ、再びチェロを弾く。そんなストーリー自体は悪くはない。ハートウォーミングは大好きだ。だが、人間をもっと厳しく見つめなくては小説としては問題あり、だ。悪い小説ではなく、どちらかというと、かなり面白かっただけに、後半の安易な展開には心底がっかりした、ということなのだ。予定調和のドラマは心地よいが何も生まない。ラストでボストンへ旅立ち父親と和解したからといってそれですべてがうまく収まるわけではない。怒濤のように押し寄せる不幸と、いきなりすべて丸く収まる大団円の間で、本来描かれるはずだった彼女の孤独と不安は口先だけのものとなり、宙吊りされたままだ。

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