ベルギーの新鋭バス・ドゥヴォス監督・脚本作品。4本目の映画で前作『ゴースト・トロピック』でカンヌ映画祭でも注目された後、再びベルリン映画祭に出品された23年の最新作。たった83分の映画だが、相変わらずの呆れるばかりの長回し。冒頭の建設現場の建物をいつまでも撮ったシーンの長さ。フィックスでいつまでも続く不必要な長さは前作同様。そんな感じのムダな長さが随所にあり、そこを普通に撮っていたら上映時間は70分くらいになるだろう。ストーリーテラーではなく、語り口はぎこちない。
ポスターになっている主人公が出会う中国系の女性は植物学者だと終盤でわかる。彼女とハンガリーからの移民労働者である主人公が出会うお話は後半。前半は冷蔵庫に入っていた野菜で作ったスープを持っていき、友人たちに振る舞う話。ブリュッセルを離れハンガリーに帰るつもりだから別れの挨拶を兼ねての訪問である。友人たちや姉貴との交流が些細で優しい日常の断片として描かれる。
だからこれは恋愛映画ではない。もっとささやかなドラマだ。彼女とはレストランでなんとなく出会い、ほんの少しの時間を共にする。公園での散歩の途中、再会して楽しい時間を過ごすけど彼女は彼の名前すら知らないし、彼はハンガリーに帰るからこの後会うことも(たぶん)ない。だけどふたりが過ごした優しい時間は確かなことだ。それだけでいい。
『ゴースト・トロピック』同様本作もいささか小手先のテクニックに走りすぎて深みがない。だから傑作とはいい難いが悪くはない映画だ。だけど、ラストのいきなりの幕切れは爽やかでいい。