ふたりの旅が描かれる。エレナと道生。アメリカ横断。ニューヨーク、ウッドストックからテキサス、エルパソ。対照的なふたつの街を結んでふたりの日系人である少女と日本から来た少年がお互いに別々の場所から反対の街に向かう旅。3月、春休みの短い旅。家族のもとを離れて、エレナはお母さんの親友と、道生は兄と旅する。一瞬ふたりは出会い、すれ違う。さまざまな人種が入り乱れ暮らす街アメリカでふたりは初めての旅をする。
アメリカ、テキサスで暮らすエレナはアメリカ人の父と日本人の母から生まれてきた。5年前の事故で亡くなった母が好きだった村上春樹の『国境の南、太陽の西』を携えての出発。ニューヨークにいる道生は父親の仕事の都合でここで暮らしている。15歳。兄の恋人が待つ町への旅は、大人への出発。
全く知らない同士だったふたりは一瞬出会いすぐに別れていく。お互いの連絡先も知らさずにこんな大きな国のかたすみで出会ったのに。だけど運命のいたずらで再会するきっかけを摑む。もちろん大切なことはそこではない。彼らがそれぞれまるで違う環境である場所を旅して新しい自分と出会うことにある。旅は人生に似ているなんてよくいうけど、彼らのささやかな初めての旅はこれから始まる人生のスタートにふさわしいものだったはず。誰もにとっても新しい4月が始まる。