習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『イースタン・プロミス』

2008-07-05 10:45:42 | 映画
 クロネンバーグが超能力やらホラーから足を洗ってこういう犯罪ものに取り組むようになったのは、なんだか少し寂しい。彼には一生「げてもの」を作り続けてもらいたかった。『ラビット』や『スキャナーズ』の昔から、キャリアの最初の頂点になったバロウズ原作の『裸のランチ』まで。何をやってもクロネンバーグだ、と思わせてくれた日々が懐かしい。メジャー大作『ザ・フライ』であっても同じなのだ。この人は一生これしか出来ない、そう信じていた。

 同じデビットでもリンチのほうはアートにのめりこんでしまったが、クロネンバーグは変わらない。だいたいアートしても彼の「げてもの」趣味を貫いてきたのだから。

 それだけの彼が前作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』を作ったときにはなんだか違和感があった。いい映画だったがなんか違う、と思った。これをクロネンバーグがする必要があるのか、なんて。ここまで抑えたタッチの映画を彼が作ってしまうことに、ほんの少し割り切れなさが残った。あれはいい映画だった。それは認める。だが、彼は今までこんなおとなしい映画を作ってこなかった。過剰で抑えの利かない映画こそがクロネンバーブなのだ。

 今回は前回以上にその思いが強い。余計なお世話だがぬるぬるぐちぃぐちょがない『インファナル・アフェア』もどきの彼を受け止めるしかないのは、なんだかなぁ、と思う。彼がこうしたののなら仕方ないことだが。

 冒頭のすさまじい暴力シ-ンには圧倒された。情け容赦のない突然の描写は彼らしい。赤ん坊を巡る本題に入ってからも、よくわからない不気味さに取り込まれていく看護師(ナオミ・ワッツ)の不安な気持ちがしっかり伝わってきて緊張感が持続する。レストランでのボスとのやり取りなんか絶品だ。

 赤ん坊を介してロシアン・マフィアの世界にコミットしてしまう彼女と、マフィアの用心棒であるヴィゴ・モーテンセンとの関係性の中からドラマの核心に迫っていく。とても上手い作劇だ。ヴィゴ・モーテンセンは前作の主役から今回は受けの側に回ってとても抑えた演技を見せる。それだけにサウナのシーンの迫力は凄い。一気に爆発したって感じだ。正直言ってこの映画は面白い。だが、これがクロネンバーグであることがやはり引っかかるのだ。勝手な感想で済まないがどうしてもそれが納得いかない。
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