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映画・演劇のレビュー

『実録 阿部定』

2008-03-31 21:25:20 | 映画
 今から33年前に作られた日活ロマンポルノの大傑作をついに見る。しかも、劇場の大スクリーンで、である。大阪の最後の昔ながらの映画館である千日前国際劇場。その「さよなら上映」で特別公開された。

 ロマンポルノがこの世から消えて久しい。80年代ずっとコンスタントに劇場通いを続けた。そこで、思いもかけない凄い映画に何度も出遭った。ポルノを見るなんていうのはとても恥ずかしい行為だが、おもしろい映画に出逢うためなら仕方ないと思い、月に二度の上映に(当時は2週間で番組が変わった)欠かさず通った頃もある。根岸吉太郎や森田芳光、池田敏春を始め今の日本映画界を背負う逸材を多数輩出した。小沼勝やこの作品を撮った田中登の作品に魅了された。なんだか懐かしい。

 ロマンポルノであるというメリットを最大限に生かして、2人のセックスシーンを堂々と映画の中心において構成しているにも関わらず、行為そのものは、実はあまり見せていない。無意味な長まわしはない。あまりにあっさり切ってしまって、次のシーンに移ってしまうから、これでポルノとして成立するのかと心配になるくらいだ。必要以上の無駄がない。

 それは、阿部定(宮下順子)の生い立ちから吉蔵(江角英明)との出会いまでを描く部分もそうである。だいたいそれが映画の終盤になって初めてフラッシュバックのように短く描かれていく。

 冒頭の何も映らない真っ暗なスクリーンに、声だけが響くあまりに長いシーン。彼女が今まで名乗ってきた偽名の数々が語られる。映写ミスではないか、とすら感じ不安になるくらいだ。ようやく「定、吉 二人」とスクリーンに赤い文字が出るオープニングの見事さ。ここからラストまでの76分は、果てしなく長く、同時にあっという間の出来事だ。二人の地獄巡りであると同時に至福の時間である10日間の日々が、これ以上ない濃密な時間として描かれていく。

 宮下順子が素晴らしい。まだ若いのに、まるで人生を生き尽したような30女の体を全身をさらけ出して表現する。これは演技を超えている。美しいだけでは安部定は演じられない。彼女が性にとりつかれ、地獄をさまよいようやく見つけた安住の地である吉蔵との、未来のない(今だけしかない)時間を、昼も夜もない場所でただお互いの体を貪りあうことで、その肌と肌が絡み合い擦れ合う、その感覚のみでわかりあう姿は美しくも哀しい。

 男を絞殺して、男根を切り取り、それを持ってさまよう彼女の姿は、人間が生きていくことの喜びと哀しみをその身一つで表現している。

 

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