『サラエボの花』でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞したヤスミラ・ジュバニッチ監督作品。あの映画は素晴らしい作品だった。彼女が映画を通して伝えたいことが、ストレートに伝わってきた。
今回も同じ。知って欲しい現実がある。伝えるために作る。一貫した姿勢。1995年、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の中で起きた大量虐殺事件「スレブレニツァの虐殺」。その全貌と、そんな中で大切な家族を守ろうとした一人の女性の姿を描いたヒューマンドラマだ。個人的なことと戦争の実態。どちらかに比重を置くのではなく、どちらも同じように描く。だからこれは社会派映画ではなく、自分の見たことを伝えるプライベート映画だ。95年は阪神淡路大震災とオウム真理教の年だったということを改めて描いた千葉雅也の『エレクトリック』を読んだ直後だから、その不思議な符号にも驚く。(もちろん、たまたまだけど)あの年、日本で起きた事とボスニアで起きていた事。どちらも同じ地球(世界)での出来事。
戦争はずっといつまでも続いている。人と人とが争い合う。誰が正しいとか、間違いとか、そんなことよりこんな悲惨なことをできる人たちがいるという事実にショックを受ける。
紛争地で通訳として働く。ここは自分たちの暮らす街だ。国連が援助する地域でこんな虐殺が平気で起こる。無力感が漂う。彼女が夫とふたりの息子たちを守りたいと思うのは当然のことだ。彼女の必死の行為はわがままではない。だけど、報われない。虐殺された2万人の中に彼らも含まれる。