長谷川博己、綾瀬はるか主演の映画だ。ということは、きっとラブストーリーになる。二人が恋に落ちる、という展開ね、と誰もが思うはず。スイミングスクールのコーチとそこにやってきた泳げない40男。ボーイミーツガールの典型。でも、ここにはそんな定番の展開はまるでない。ふたりが対等にも描かれない。これはあくまでも長谷川演じる男性のお話で彼が単独主演、主人公。だから綾瀬は助演。しかも恋の相手ではない。彼の恋の相手は子持ちのシングルマザー阿部純子演じる女性。そして彼の別れた奥さんを麻生久美子が演じる。だから、映画のポジションとしては綾瀬はるかは一応2番手だけど、普通の映画なら4番手になるところだろう。でも、それを2番手にしてしまうところがこの映画の面白いところだ。しかも、宣伝では(ポスターとかも)ダブル主演という感じにしている。確かにそれでも看板には偽りはないのだけど。そういうことで、この映画の立ち位置がすごく不思議な感じなのだ。
水泳教室を舞台にしているけど、断じて「スポーツもの」ではない。スパルタコーチの指導を受けて泳げなかった男が立派なスイマーに成長していく話ではない。さらにはクライマックスでは大会で優勝したりもしない。大会、出ないし。たしかに泳げるようにはなる。水に入ることすらできなかったし、顔つけも無理だったのに、50メートルとかちゃんと泳ぐのだ。立派、立派。でも、そこまでだ。
ということで、これはとても小さな映画なのだ。特別なことも、主人公2人の恋もない。綾瀬はるかなんてほとんど全編水着のシーンしかないし。と、こう書くとグラビアアイドルの水着ショットのようなものを想像する人、そんな期待をしてはいけません。セクシー水着ないよ!
大学で哲学を教えている講師が水難事故で息子を失くして、それから妻とぎくしゃくするようになり、離婚した。そんな彼が一発奮起して水泳教室に通い、泳げるようになる、というただそれだけの話なのだ。こんなお話で1本の映画を作るなんてふつうありえない。でも、そんなあり得ない映画に挑む。お話を見せるのではなく、日々の生活を見せていく。原作がエッセイだからかもしれないけど、へんな盛り上げはなく(ドラマチックではなく)描写は平坦で、さりげなくスケッチしていくだけの映画だ。でも、そこがとてもいい。わざとらしいコメディにでも味付けされそうな企画なのに、そこを避ける。大仰な映画でもない。でも、チラシにあるようにこれは確かに、小さな「希望と再生の物語」なのだ。