人生という森の中で迷子になってしまう。ルツと留津。同じ時に生まれ別々の人生を歩む同じ女性のふたつの人生が交互に描かれていく。生まれる前から始まり、50年間が同じくらいのボリュームで描かれていく。同じ家で生まれて、でも、微妙に環境や状況が違って、母親が死んでしまった場合と生きている場合とか、誰と結婚するのか、しないのか、とか。人生の様々な局面での選択の違いが同じ人間をこんなにも変えてしまうのか。
人生の選択肢はいくつもある。自分のせいで違う選択をしてしまうこともあるし、運命のようなものに委ねられる場合もあろう。ふたりの人生を見つめていくことで、ただのパラレルワールドではなく、この世界の在り方にすら触れる。50年のさまざまな局面をまるで日記でも読むように簡単に綴る。ワンエピソードが数頁から、長くても10ページには至らない。ふたりの50年間が500ページで描かれるのだから仕方ないことだ。1年5ページの割合。2人分なので。でも、とても丁寧。小さなできごともおろそかにしない。
もちろん、これはどちらの人生がいいか、とか、そういう問題ではない。ただ、最後の50の後、未来に突入して、さらに10年後が描かれるのが興味深い。60歳である。僕は1966年生まれの彼女たちより7歳年上なので、近未来の60歳は実にリアルに想像できる。50歳はまだまだ若いから大丈夫だ。問題は60であろう。60歳問題にこの作品に切り込んで欲しかった。自分が参っているからこそ、その答えが欲しいと、わがままを思う。2018年を通り過ぎて、その先を予見してそこに何を提示するか。
読みながら自分の人生を同時にたどる。この長編小説の中にある無数の人生に迷い込む。あっというまのできごとだった。