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映画・演劇のレビュー

『ロボジー』

2012-01-20 00:09:56 | 映画
 矢口史靖監督の最新作だ。前作『ハッピーフライト』はあまりに真面目で、まともすぎる映画で、そのことに驚いたが、今回はあまりに不真面目で驚いた。こんないいかげんな思いつきで映画を1本作れるはずもない。

 見始めてしばらくすると、なんか退屈してくる。こんなの嘘じゃん、と思い、もう話に乗れない。だが、終盤、主人公である3人が、大学の講演会に呼ばれて大学生からいろんなことを学んでいくシーンは、面白かった。いくらなんでも、学生の話から本物のロボットを作れるはずもないが、黒板に書かれる方程式のようなものとか、まぁ、僕にはよくはわからないが、エキサイティングで、なんだかリアルそうな話合いが、そこでは熱く交わされる。その結果本当にこういう人型ロボットを作ることはできる、一瞬そんな気分にさせられるのはうまい。監督はかなり綿密な取材を重ね、この作品を作ったのだろう。その結果、ロボットの中に人が入るなんていうバカバカしい設定をリアルすれすれでファンタジーにしようとした。

 それにしてもあのミッキー・カーチスが主演するのだ。彼が初主演して、その名も改め「五十嵐信次郎」として銀幕の主演デビューである。それだけでも十分感動する。だが、やはりいくらなんでも世間の人たちがここまで着ぐるみのロボットを信じるなんてないだろ、と思う。そこでつまずく。最初はあわよくば、ばれなかったとしても、その後マスコミのどんどん登場し、いろんなところで、デモンストレーションしていく過程で必ずばれるはずだ。そんなこと、矢口監督も先刻承知の上である。それをどこまで引っ張れるのかの限界に挑むのが今回の挑戦だったのだろう。かなり頑張ったとは思うが、途中からはちょっと息切れする。

 先にも書いたが、このバカ騒ぎが限界を超えたところで、大学で講義することになり、そこで専門的な突っ込みをなされて、しどろもどろになるとこから、面白くなる。「ニュー潮風」(これがロボットの名前です! 実はロボジーではない! それにしても実に上手いネーミングだ。もちろん、ロボジーが、です。ニュー潮風という超ダサイ名前も素晴らしいが)を通して学生たちがその構造を想像する、それは同時に彼らが自分たちの夢を語ることにもなる。現実には存在しないロボットを現実にあるニュー潮風を通してリアルに想像することで、ありえなかったロボットを主人公の3人組が現実化していこうとする、という話へと進展していく。この構造は実に心憎い。ただのバカ話ではなく、ありえない夢をみんなの力で現実の物としていく姿を描くドラマだったと、わかったとき、この映画に対して優しくなれる。

ミッキー・カーティス初主演映画というパッケージングを喜ぶディープはファンにも、ちゃんとサービスした上で、凸凹3人組の珍道中というストーリーラインに乗っかり、最後は夢の実現へと至る。とてもよく出来た構成の娯楽作だ。

ただし、映画として『ウォーターボーイズ』や『スィングガールズ』を超えたわけではない。どちらかというと、昔のマニアックな矢口節を聞かされた気分だ。悪くはないけど、なんだかなぁ、って感じ。詰めが甘過ぎて映画としてはこれではかなりつらいというのが本音だ。


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