習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

劇団大阪『フオルモサ!』

2011-06-27 22:06:23 | 演劇
力の籠もった大作である。ダブルキャスト(全員がそうなっている!)2ヴァージョンで描く劇団大阪渾身の力作『フオルモサ!』は、日本の統治下の台湾を舞台にして、日本が初めて手に入れた外地の植民地をどう支配するかが描かれる。そこに暮らすたくさんの山岳民族を平定し、彼らに快適な文明を与えるという使命感が、現実の武力行使による支配の中で描かれる。

だがそれを重々しい歴史劇としてではなく、ひとりの偏屈な民俗学者を通して描く。話はこのトラブルメーカーである男を巡るドラマとして構成される。彼が現地の人たちの研究を通して、野蛮な首狩族と怖れられた山岳民族の人たちの生活に入っていくことで、日本政府のやり方ととことん対立していく姿を丁寧に見せていく。だが、図式的なドラマにはしない。どちらかというと、話はこの学者のエゴイスティックな行動が周囲の人たちの優しさとぶつかり、みんなを苦しめるというスタイルだ。彼を悲劇のヒーローとするのではなく、頭が固い馬鹿者として冷静に見せている。この視点が素晴らしい。ただ弱者の立場に立ち、自分の正義を振りかざすのではなく、周囲の輪を掻き乱すトラブルメーカーで、みんながなんとかして彼を抑えさせて丸く収めようと努力しているのに、それにすら気付かない男として描かれる。それを彼の妻の視点から見せる。作者、石原燃のこの視点が、全編を貫いており、そこがこの作品を面白いものにしたのだ。

台湾総督府の一室を舞台にして、芝居はここから1歩も出ない。この部屋から台湾を見る、という作品構造も素晴らしい。この一貫した視点を最後まで崩さない。ポルトガル人が「イラ・フオルモサ!」(麗しの島)と呼んだという美しい島、台湾。日本の植民地支配は朝鮮とは違って、この島では上手くいったように思われている。しかし、所詮は植民地支配である。そんなものに上手くいくも下手もありはしない。台湾人から自由を奪い、自分たちの文化を押しつける。彼らが従順で日本の生活文化の素直に馴染んでいった、なんて幻想に過ぎない。

台湾は大好きな国だ。今まで何度も行っているが、まるで自分の故郷に帰ってきたような気になる。今の日本が見失ってしまったものがあそこにはまだ今もある。だが、この美しい国も今近代化が急速に進んで今では日本と変わらなくなっている。そんなこと、世界中どこに行っても、同じだろう。僕たちがこれからこの世界をどう変えていくことになるのか、この芝居で描かれることは、明治大正という昔のお話ではない。これからの未来に向けて、我々が何を為すべきなのかという大きな問題がここに問われているのだ。


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1 コメント

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わたしはちょっと違います (大橋むつお)
2011-06-28 16:18:23
わたしは、この芝居を観ていて日本人の描き方がステレオタイプであったように思います。なにか必要以上に戯画化されていて、不必要に日本人を漫画的な三枚目にしてしまっているように思えました。石原さんの原作を見た楊先生も「(モデルの)森丑之助は本当に寛容で優しい立派な人だったんですよ」哀しげにわたしを見つめる……と、パンフにも書かれていました。この芝居は台湾統治を現代の視線で見ているところが問題であったと思っています。当時は植民地を持つ国と、植民地になる国しかなかったのです。その中で、日本の台湾統治は世界でも珍しく成功した例であります。李登輝元総統の言葉を持ち出さずとも、台湾を旅行した日本人は、なにか懐かしいものを感じることが多いようですね。そこに他の植民地支配とは違った面が見えるとおもいます。極論かもしれませんが、作者の日本人を見る目を冷たく感じるのです。また、主人公百木の高砂族への想いが、軽く、狭いものに感じて、わたしは共感できませんでした。楊先生が感じた違和感と同質なものだと思います。高砂族とは1930年に霧社事件という凄惨な事件がありました。これも互いの文化の無理解から起こった事件ですが、わたしならそこから切り込んでいきます。ラスト、百木の妻と、百木の助手宮田の噛み合わない手紙の朗読でシンボライズしたのですが、百木の形象が弱いせいかカタルシスにはならず、観客はオイテケボリを食ったような感じになってしまっていました。まあ、HIROSEさんとは観た芝居が、おそらく違うと思いますので(わたしは26日のBチームでした)受け取るものも違ったのかもしれませんが。
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