〈場所〉と〈時間〉と〈生〉を描いた三編、と帯にはある。川のある町なんてどこにだってある。どこにでもある町のかたすみでの3つの日々を描く。別々の場所、さまざまな時間、それぞれの人生。それをさりげなくさらりと描く連作。
第1話は8歳、小学3年の望子が主人公。母とふたり暮らし。でもすぐ近所におばちゃんがいるし、じいちゃんばあちゃん家も近くにある。だから3つ家がある感じ。幼なじみの美津喜とは3年になってクラスは別になったけど、いつも一緒に遊んでいる。ばあちゃんちで相撲を見るのが楽しみ。何もない日常のスケッチ。離婚した父親にも定期的に会う。そんな彼女の小さな成長物語。
第2話はその街に棲むカラスたちの描写から始まる。同時にその街に住むさまざまな年齢の人たちのスケッチが綴られる。カラスたちと、ある家族、その周辺の人々も含めた話は等価に描かれる。子どもから大人まで、いくつもの視点から語られる出来事。カラスだって特定の1匹ではなく、いろんなカラスの視点から語る。
そして第3話は外国の街になる。ヨーロッパの街。そこで暮らす一人暮らしの日本人の老女、芙美子が主人公。パートナーを10年前に失った。同性の婚姻を認めない日本を離れて同性カップルを受け入れる国にやって来て45年になる。今の彼女は認知症の兆候がある。それを心配して日本から姪っ子が訪ねてくる。
事件は起きない。ただ日常のスケッチである。短いエピソードの連鎖。3篇にはつながりは一切ない。だけど、3話はつながっている気がする。人が生まれ、生き、やがて死ぬ。そんな当たり前のことがこんなにも胸に沁み入る。最後のエピソードを読みながら涙ぐんでしまった。