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映画・演劇のレビュー

『王様のためのホログラム』

2018-02-21 19:17:30 | 映画

 

トム・ティクヴァの新作は、驚きの連続で、1時間38分の短い映画なのに、とんでもなく遠い世界へと連れ去られる。不思議の国、サウジアラビアに出会い、想像を絶する体験をする。現実の世界なのに、こんな現実が今この世界のどこかに確かにあるのか、という衝撃。もちろん、それは現実のサウジで、この風景は実際に彼らが見たものなのだ。主人公のアメリカ人はここで王様に自社の商品を売るためにやってきた。会議用ホログラムシステムだ。だが、王様は不在。いつ帰るかわからない。代理人も不在。誰と話をすればいいのかもわからないまま滞在する。

 

しかも、お話はどんどん逸れていく。先がまるで読めない展開に戸惑うばかりだ。しかも、このシュールな風景。砂漠に巨大な都市を作っているのだが、中途半端な街作りで廃墟のようになっている。工事現場のまま放置された街はまるで夢の中の風景のようだ。現実感のない風景の中で、同じように現実感のない人たちが働いている。でも、すべてが書き割りの中のようで、どこまで行っても現実感は希薄なままだ。

 

トム・ハンクス演じる夢を失った中年男は、ここで第二の人生をスタートさせるわけだが、あまり乗り気ではない。なんだか抜け殻のようになっている。表面的には笑顔で繕い、スタッフを元気付けるけど、自分自身はまるで元気はないし、体調も最悪だ。背中にはへんなしこりができている。それはもう、ちょっとした(いや、かなりの)コブだ。ラクダがたくさんいるから、彼にもコブができたわけではないけど、気になる。外国に行くとそこでしか通用しないルールがたくさんあり、ただの日常生活であるはずなのに、驚きの連続、ということがよくあるけど、この映画はその驚きのレベルが尋常ではない。悪夢のような出来事がふつうに起こる。それを淡々としたタッチで見せていく。なんでもないことのように。それが凄い。荒唐無稽なお話ではない。現実なのに、(たぶんこれはあの国でのただの日常風景)こんな感じなのだ。

 

サウジではロケができないから、モロッコにサウジの街を作ったらしい。そんなバカな、とそこにも驚く。(映画の後、メイキングを見たのだが、そこで知った)ファンタジーではないけど、ファンタジーなんかよりももっともっと不思議な世界がここには展開する。そこで主人公は新しい生きがいを見つけることになるのか。とりあえず、彼はサウジに留まる。

 

 


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