これを児童書のコーナーで発見したのだけれど、(かわいいイラストの表紙で、読みやすそうでなんだか楽しそうな本だ、と手にしたのだが)これがまぁ、一筋縄ではいかない作品だった。確かに読みやすいけど、内容は実はかなり専門的で難解。これを小学生に読ませるのか、と少し驚く。一応はわかりやすくは書いてあるけど、かなり難しいはず。
主人公のふたりは6年生でまだ小学生。(姉貴である中学生の女の子もサポートに入るけど、彼女はもっとノーテンキであまり何も考えていないふう)彼らはこの「忘れもの遊園地」で複雑な記憶をめぐるメカニズムに翻弄されることになる。親切丁寧で優しそうなおじいさんが彼らをこの遊園地へといざなう。でも、彼は「いいひと」ではなく実は「くせもの」なのだ。(でも、悪い人というのではない。)これは「忘れてしまいたい記憶をなくすこと」をめぐるお話。
忘れものによって作られた遊園地で、記憶を亡くした母を探す少女。彼女を助ける少年。このふたりの同級生の冒険。記憶をなくすことでいやなことを忘れられるのなら便利かもしれない。だけど、逃げていても何も解決しないし、忘れてしまうことで得られるものはない。成長していくための礎が失敗の中にはある。そんなことに彼らは気づいていく。逃げるのではなく乗り越えるのだ。
交流的記憶システムとか、プライミングだとか、聞いたこともないようなことばが飛び交う。でも核心部分は単純だ。『忘れてはならない』。ただ、それだけ。ちゃんと痛みを抱えて、生きていく。そこから逃げない。この遊園地を作った老人である園長も含めて彼らがここから現実世界へと戻るラストが心地よい。子ども向けのはずなのに、ストーリーは単調で、なのにこれは260頁もある、ちょっとした長編小説なのだ。でも、ここに描かれる問題としっかり向き合うべきだと思わされる。そんな真摯な作品だった。