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映画・演劇のレビュー

友井羊『映画化決定』

2021-10-06 10:27:34 | 演劇

凄い小説に出合えた。たまたま図書館の書棚のかたすみでこれを見つけた。ほんとうにすまなそうに一番下の段の端に斜めになって立てかけてあった。ブックエンド仕様にされていた本だ。新しい本なのに(2018年刊行)あまり誰にも読まれてはいなかったようだ。

このタイトルである。僕はついつい手にしてしまう。表紙のイラストもかわいい。高校生のお話みたいだ。そこで迷わず借りてきた。読み始めて驚く。これは僕たちの高校生だったころのお話だった。もちろん、時代も状況も異なる。だけど想いは同じだ。自分の映画を作りたい、ただそれだけ。70年代、僕は高校生だった。でフジの8ミリ映画コンクールに出品して(まだぴあフィルムフェスティバルは開催されていなかった)映画監督を目指す、とか、なんだとか。夢を抱いていた時代。中原中也が大好きで、自分も30歳には死ぬ、とか、かっこつけて思っていた頃。つげ義春が大好きで勝手に『ねじ式』を映画化した、りもしていた。漫画家を目指す友人がいた。芝居をしている友人もいた。高校生だった頃の自分が好きだったから、ずっと高校生のままでいたかった。現実を見るのではなく、夢ばかり見ていたけど、それがあの頃の現実で、そんな世界の中で生きていたのだ。そんなことを思い出しながら読んでいた。この小説のようなかわいい女の子と仲よくなる機会には恵まれなかったけど、あれは今でも自分が一番輝いていた時代だったと思える。

天才じゃないけど、秀才になるための努力をしている、という高校生天才映画監督ハルと、小学生の頃からずっとマンガかを目指すナオト。彼らが出会い一緒に自分たちの映画を作る高校2年の春から夏にかけてのお話だ。『春に君を想う』という甘いタイトルが高校生っぽくていい。もう少しひねりがあってもいいんじゃない、と大人なら思うけど、子供にはこんなタイトルがふさわしい。これでも精いっぱいの背伸びだ。ドキドキしながら彼らの夏を迎える。

と、ここまで書いたけど、これは小説の半分のところまでしか読んでない時点での感想だ。今、最後まで読み終えて、実は少しがっかりしている、後半戦がなんだかうまくないのだ。こんなのでいいの?という感じで、拍子抜けがした。あまりのご都合主義。上手くいきすぎ。映画の撮影が始まったところから、違和感を抱き始めてラストではそれはないわぁ、と思った。病気もの、にするのは嫌だったがそこは譲る。でも、高校生の映画撮影がこんなにも本格的であるのには納得がいかない。彼女が天才でその作る映画はレベルが高くそれがそのまま劇場公開可能な仕上がりになる、というのは納得がいくけど、あれだけの大人数のスタッフを引き連れ大予算の本格的映画を作るための経済的支援は誰がしたのか。プロのスタッフを引き込むことなく2か月に及ぶ大作を高校生が夏休みを利用して撮れるのか。そこも譲る。でも、映画のラストの改変を巡る展開や、彼女が死んだことにして、4年後の再会する、とか、そんなことをする意味がどこにあるのか疑問だ。後半いろんなところで綻びだらけになる。

せっかくの「夢のような小説」が最終的には無残な作品に仕上がったのがなんとも残念でならない。


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