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映画・演劇のレビュー

EMOTION FACTORY『よき片翼』

2009-08-05 20:47:25 | 演劇
 1時間強の中編作品である。とてもよく出来ている。3話からなるオムニバス・スタイルで、5組の夫婦の秘密が描かれていくことになるのだが、そこには必要以上の説明はない。ほんの少しのエピソードの断片から彼らの関係が見え隠れする。それをそっと垣間見るだけだ。その先にあるものを描きはしない。1時間という長さではもともと不可能だ。そして、それがこの芝居の狙いでもある。

 さらっとなぜるように見せる。そこにあるはずの深淵をのぞきこむことはない。だが、一瞬ひやりとさせる。深追いしない。台本は馬場千恵さん。彼女らしい。それを猪岡さんが丁寧に見せる。台本のテイストを大事にし、まず、劇世界の持つ雰囲気をきちんと見せることに終始する。それって正しい選択だ。雨のにおい。さびれた質屋。(まぁ、繁盛してる質屋なんて、なんだか、と思うが。それに今時質屋を舞台にするというのも、今から取り残されたようで面白い。)舞台設定はお決まりのパターンだが、悪くない。

 男は壺を持ってここにやってくる。先祖伝来の大事な壺だが、これを売りたいと言う。本当はこれは自分のものではない。妻のものなのだが、と言う。第1話は妻の暴力と、それに耐える夫の話。無意識に夫の首を絞める。なぜ、そんな行為に及ぶのか。第2話は大事な手鏡を売りに来る女と、彼女が住むマンションの仲のいい2人の主婦が絡む話。第3話はこの質屋の主人と死んだ妻の話。

 5組の夫婦のそれぞれの物語を必要以上の説明もないままほんの断片だけでを見せる。それ以上は描かないから、なぜ?ばかりが残る。これでは芝居としては不完全だ。しかし、その不十分がいい。僕たちの生活に於いてすべてがあかるみに出るなんてことはめったにない。見えないものは見えないままだ。それいい。この芝居が描こうとするのはお話の輪郭であり、気配であろう。それを感じれたなら十分なのだ。

 オーナーの秘密は芝居の最後で明かされるが、はたしてそれが何なのかはわからない。妻への愛だ、なんて言わせない。だいたい妻の剥製はカーテンの裏に隠されたままなので、観客はその事実を確認することも出来ないし。

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