原宏一らしい作品で安心してあっという間に読める。3話からなる連作長篇。間借り鮨屋の雅代さんが全国を旅して(3話だから3カ所だけど)みんなを幸せにするというよくあるパターン。新しい発見はない。『佳代のキッチン』シリーズの新バージョンで、相変わらずの定番展開。
ただ読んでいるとほっこりする。それだけでも十分だと思う。定番は悪いことではない。だけど、物足りない。ここには怖さがないからだ。最後はほっとして終わり、でもいいが、そこにある種の危機感がなくてはただの緩いだけの小説になる。
東京人形町のバスク料理店から金沢片町の町屋バー、最後は千葉竹岡。(竹岡ってどこだよ!)雅代さんの握る鮨を食べて、困っている人たちが救われる。彼らがいろいろ悩んで、そこから再生していく過程も描かれていく。なんだかいい気分にもさせられる。先日読んだ『黄色い家』のような作品の後なので、こんな感じの読みやすい作品がいい。各エピソードは100ページくらいあるから、それなりのボリュームもあるし、読み応えもある。