こんな大仰なタイトルの小説を読みたくないな、と思いつつ、手に取ったのだが、(というか、じゃぁ、手に取るな、と思うとこ)帯にある解説読むと、なんだかお仕事小説で、TV局が舞台で女の人たちが頑張る話で、読みやすそうだった。なんとなく、軽いものが読みたかったので、まぁ、読むか、と読み始めたのだが、これがまぁ、実におもしろい。しかも、いろんなことを考えさせられる作品で、一瞬で読み終えた。
この胡散臭いタイトルが、実はとても意図的なもので、見事に嵌められた、って感じだ。作者の術中にはまり、踊らされた。「帝国」は「日本」に置き換えるべきもので、で、それって「日本テレビ」ということなのだ。そんな単純なことなのだが、そこをまんまでタイトルにしたなら『帝国の女』ということになる。『日本の女』というのと同じくらいに胡散臭い。
きらびやかな業界で働くエリート女性たちのお話なのに、実はとんでもない、というよくあるパターンなのだが、そんな中で何のために自分たちは頑張るのか、そこがテーマとなる。女性がバリバリ働くことの困難がストレートに描かれる。
日テレで(帝国テレビジョン)働く。(まぁ、メジャーなTV局という程度で、日テレとは直接関係ない話なのだが、でも、このネーミングのわざとらしさがいい。)宣伝部で仕事をする30歳の女。敏腕プロデューサー34歳。大御所の脚本家44歳。さらには、大物タレントのマネージャー27歳。ラストはTV誌(あきらか「週刊テレビジョン」)の記者28歳。一見華やかな芸能界で働く裏方の20代後半から40代前半の5人の女たちの5つのお話。よくある短編連作長編。
しかし、こんな過酷な職場はない。すべてを犠牲にして夢に向かって生きる女たちの物語。かなりリアルに残酷に描いていくのが凄い。女たちが本気で働く(というか、仕事なんだから、みんな本気でしょうが)って何なのか。そうすることで、結婚なんか出来なくなるという現実。これはこの世の中がこれからどうなっていくのかを占うような壮大な小説でもある。彼女たちは企業の最前線で戦っている。ボロボロになりながらも、「この仕事が好きで、ずっとやりたかったドラマ」を作ろうとする。そこに託したのは、簡単にいうと夢をかなえる、ということが、人にとってそれがどれだけ大事か、ということなのだが、これはそこに留まらない。
夢が叶った後、人はどうしたらいいのか、という問題にも踏み込む。次の新しい夢にむかえばいい、なんて安直に言われたら鼻白む。そんな簡単なものじゃないのだから。これは、別に女性だから、いう問題ではないけど、(男も含んで誰にでも共通する、ということだ)でも、女性だからこそ、という視点から作られてあるのがいい。狭い入口から入って大きな出口に至るから誰もが共感できるものになっている。
この手の「お仕事小説」は、最近はやりだ。今の時代、これは切実な問題を孕んでいるのだろう。それをこんなふうに軽やかに描く。柚木麻子のアッコちゃんシリーズが大ヒットするのも、こういうストレスフル社会が背景にあるのだろう。安易な答えではなく、確かな出口。未来がここから提示できたならいい。自己満足ではなく、世界が彼女たちを受け入れ、それがこの国の未来の方向性を定めるという結果になるとうれしいのだけど。(と、なんだか実に大げさ)