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映画・演劇のレビュー

小嶋陽太郎『ぼくらはその日まで』

2017-12-24 21:49:40 | その他

 

これは児童文学の範疇に入れてもいいような小説なのだろう。このサラリとしたタッチが素晴らしい。シリーズの2作目らしいが、これを最初に読んでよかった。1冊目の中1のエピソードからだと、こんなにも衝撃的ではなかったはず。中学2年生がこんなにも子供のままで居られるという奇蹟を、こんなにも当然のこととして描かれると、なんだかうれしくなる。彼らなら来年も(中3だ!)このままで、いるかもしれない、と期待させる。(もちろん、不可能だけど。)

 

昔、山田詠美の『僕は勉強ができない』を読んだとき、高校生の時にこの本と出会いたかった、と地団駄を踏んだ。山田詠美と僕とは同い年だから、彼女がこの小説を高校時代に書けるはずもないのだけど、こんなふうに、高校時代を生きられたなら、どれだけ幸せだったことだろう、と思った。もちろん、高校生の時にこの本を読んだなら反発したかもしれない。(ありえない、とか、自分とは違うとか、文句言いながら)大人になったからわかることって、確かにある。今の高校生たちは学校の授業で山田詠美と出会うことが出来る。凄いことだ。この10年くらい高校の教科書は凄い勢いで進化した。今、使っている教科書なんて、穂村弘の短歌が載っているのだ。もうあり得ない世界だ。今までなら教科書なんかでは出会えない若い作家をどんどん取り込んでいる。でも、高校生たちに理解できるかな、と少し心配にもなるけど、触れる機会があるだけでも、万々歳だ、と僕は思う。

 

閑話休題。元に戻ろう。中2の3人の男女(男2人、女ひとりという図式だ。まず、もうこれだけで、凄い)がチームを組んで、いろんなことを調査する。長谷川探検隊(調査隊だったっけ?)を結成して、何でも屋のようなことをする。クラスの子から依頼を受けて、調査探検をするのだ。たとえば、行方不明になった猫を探して、とか。まぁ、体のいい便利屋だね。でも、彼らは全力で依頼をこなしていく。

 

今時、こんな中学生はいないだろう。おとなしい女の子がメンバーに入るというのも、ふつうなら不思議だ。でも、そんなドリームチームをこの小説は実現する。そこに、クラス一の美少女やら、高校3年のきれいなお姉さんまでもが絡んできて、彼らと関わりを持つ。主人公の僕ではなく、ハセがみんなを引っ張っていく。クラスの美少女はハセが好きだし、高3のお姉さんもハセに惹かれる。もちろん、ハセも彼女が好きになる。ハセは頭もいいし、背も高いし、スポーツ万能。でも、凄く変わり者。

 

年上だけではない。彼はもちろん、小学生ともすぐに仲良くなれる。要するに誰でも、なのだ。だからといって八方美人なんかではない。それどころか、マイペース過ぎて困る。自分のことしか、見えてないから、僕やチカ(仲間の女の子)がフォローにまわらなくてはならないこともしばしば。(というか、チカもマイペースなので、僕がオロオロすることになる)

これはある種の理想の関係性だろう。次にこの子たちが、中3になったら、どうなるか。この関係性を持続することは不可能だと思うが、このチームならまだまだやれるかもしれない。中2という時間を舞台にして、彼ら3人の冒険がこの小説では描かれる。ここにはその中身については触れない。もう僕は読んでしまったし、十分堪能できたから、気分は次に移っている。この後の時間が気になる。中2という微妙な年齢でも、こんなことが出来てしまったのだから、きっと次もある。こんなふうにして、やがてそのまま大人になれたなら、いいなぁ、と夢見させてくれる。

 

ハセはわかっていて、こんな子供を演じている。しかし、しっかりと演じたなら、本物になれると、彼は知っているのだ。サク(遅くなったけど、主人公の名前ね)はそんなハセを眩しく思う。そして、彼を信じる。チカは何も考えず彼らといっしょにいる。もちろん、バカじゃないから彼女もまたそんな自分を演じている。

 

なりたい自分になること。それが大事なのだ、と思う。つまらない大人のフリなんていらない。正しい子供でありたい。それがどんなに困難なことであろうとも。高3のお姉さんの前でも全く物怖じせず、彼女を好きだと言えるハセは凄いと思う。自分の気持ちに正直に生きることは難しい。でも、それをやりきるため、努力する。まるで天然のように、自然体でこの子たちはそれを可能にする。だから、まわりの子たちは、彼らに対して何も言わない。

 

主人公のサクは2人の女の子の間で、きちんと向き合う。大好きなフシギ少女のチカ。自分ことを好きだといってくれる美少女、水瀬さん。どこにでもいる「ふつうの男の子」である彼が、バレー部のエースで美少女の水瀬さんに「好きだよ」と言ってもらえるだけでも、天にも昇る気分のはずなのに、彼は彼女にちゃんと「僕はチカが好きだから」と言える。でも、チカ本人には、好きって言えないけど。

 

ハセに対して、尊敬はしていても、コンプレックスは抱かない。ブレることなく自分をしっかりと持っているのだ。もちろん、自信はない。勇気も持てない。ハセのようにはなれない。でも、そんな自分としっかりと向き合える。それて、やっぱりすごいと思うのだ。

 

相変わらずポプラ社は侮れない。さりげなく凄い本をバンバン出版してくれる。前作である『ぼくのとなりにきみ』もそのうち読もう。でも、それ以上に来年出るはずの3作目が今から楽しみで、ドキドキしている。

 

 


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