習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

有川浩『レインツリーの国』

2013-09-30 21:10:12 | その他
とても読みやすい小説だ。こういうのを世の中ではライトノベルと呼ぶのだろうか。(実はそうじゃない、ようだけど)それにしても、タッチが軽い。そのこと自身は決して悪いことではないけれど、読み終えてなんか物足りない。しかもなんだかまじめ過ぎる。

まずこれは大前提として、恋愛小説だけど、たまたま聴覚障害者をヒロインにしている。そこから生じる様々な問題が真摯に描かれる。作者は「たまたま」ではなく、意図的にこういう設定をしたのだ。そこでどんな障害が彼らを待ち受けるのかを描きたかった。

 彼女のとまどいや、怒り、悲しみがダイレクトに描かれる。それを受け止める彼のとまどい、怒り、悲しみも同じように描かれる。あくまでもこれは普通の恋愛小説なのだ。作者はそのことをまず大事にしている。でも、障害を持つものを描く弊害は大きい。彼女の抱える問題は健常者にはわからないことばかりだ。この小説はそんなことのひとつひとつを丁寧に教えてくれる。だが、そのせいで、まるで教育映画を見ているような硬さも感じた。

メールのやり取りを中心にして、彼らふたりの言葉のキャッチボールが描かれる。実際に会うと、なかなか素直になれないから、うまくいかない。でも、メールなら大丈夫。耳が不自由であることがハンディにはならないからだ。

あまりにストレートすぎて読んでいると、恥ずかしい。小説としては、仕掛けがなさ過ぎて、単調だ。ほぼ2人のやり取りだけ、という構成のなせる技だろう。しかも、内容はある種のパターンからは逸脱しない。奇想天外なことが必要だ、というのではないけど、現実の世界でも、もっといろんな出来事がある。なのに、この小説はそこがあまり描かれない。障害者の対応マニュアルみたいになっている。作品世界があまりに狭いのだ。惜しい。


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