習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

柚木麻子『オール・ノット』

2023-06-15 12:31:28 | その他

これは柚木麻子の『らんたん』に続く大作。だけど彼女の小説は大作より中作(なんてあるか?)の方が好きだけど、今回は大作と中作の間くらいのスケールで、ある嘘つきおばさん四葉の一代記。のはずだったのに、彼女はすぐに姿を消す。彼女のことを描く第1章がすごくいいから、彼女の過去が描かれる2章はパワーダウンする。

貧乏学生だった真央が主人公。出会ったかつて栄華を誇った山戸家の生き残りのおばさんが四葉。第1章はふたりの出会い。第2章はいなくなった彼女を探して横浜に。彼女の幼なじみの女ミャーコ(実亜子)に会う。真央は四葉の数奇の運命の転変を知る。だから2章は実亜子が語る四葉と実亜子の話。

 さらに第3章はいなくなったミャーコを探して(どんどんメインキャストがいなくなる)葉山に。最後には舞さんが登場して4章に。後半は怒濤の展開で近未来まで。最後の5章には佐々木さんという女の子が登場して、まるで冒頭の真央の立ち位置に。まさかの展開を見せるこの後半が、なんだか腹立たしい。読んでいてあまり気分はよくないのだ。四葉が可哀想すぎて。70年代から90年代を経て、現代を通り越して近未来の日本を描くSFの領域に。それにしても70年代はもう昔話として語られる時代になったのかと思うと、なんだか感慨深い。

さて、結論。ここに描かれる女たちは、自分の人生を失敗してるようで、なんだか結果的にしたたかだ。ラストはなんとかハッピーエンドになってよかったけどだけど少し物足りない気もする。この居心地の悪さがこの作品の描きたかったことなのか。この先、僕たちの未来はどうなっていくのか、気になる。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『逃げ切れた夢』 | トップ | 『THE DAYS』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。