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映画・演劇のレビュー

極東退屈道場『リメンバー・ワイキキ・ビーチ』

2009-08-26 19:36:17 | 演劇
 林慎一郎さんが6月の『後ろ前の子供』に続いて連続で放つ新作だ。三枝希望さんの戯曲を彼が自分なりの料理した前作もよかったが、やはり自分のフィールドに戻り、自分目線で放つ彼の作品は面白い。自由自在に個人的な感傷をこんなにも客観的でクールなタッチで綴る。

 自分の両親を題材にして、でもあくまでもプライベートな作品にはしない。この距離感こそが彼の持ち味だ。敢えて両親には取材しなかったらしい。あくまでも想像だけで作リあげる。もちろん背景となった時代についてはきちんと取材する。当然のことだ。だが、その中心に居る2人は個人的な男女ではない。ある時代にたくさんいた象徴としての夫婦である。そんな2人があるケースのなかで、結婚し、その後30年を一緒に過ごす。団塊の世代を主人公にし、団塊ジュニアの視点から彼らの人生、彼らの生きた時代、彼らの今を描く。そんなふうに書くとなんだか大げさな話に見えるが、芝居自体はじつにささやかな話でしかない。

 娘の結婚式に出席するため田舎から出てきた夫婦。子どもがわざわざ取ってくれたホテルで過ごす一夜。なんでもない会話劇。彼らが泊る部屋がなぜか新婚旅行で泊まったハワイのホテルになる。30年前のあの日がよみがえる。芝居はなんの変哲もない退屈な話から始まる。だが、このワイキキのホテルのシーンになった瞬間から輝きだす。若くない2人がほぼそのままで若い2人を演じる。この落差がおもしろい。若々しい演技をする2人は十分にわざとらしい。だが、このわざとらしさが芝居に命を吹き込む。

 これはただの回想ではない。30年という歳月が1975年という時代を照射する。学生運動を経て、挫折し、大人になる。そして結婚する。海外旅行がまだまだ高根の花だった時代。だが、贅沢したなら手が届くようになった時代。海外で2人きりで挙式して、旅するパッケージ旅行がブームになったそんな時代を背景に、戦後30年、日本が経済復興を遂げ世界の一等国に名乗りを挙げた時代。あれからさらに30年。この国は果たして豊かになったのか。

 なんでもない夫婦の会話劇のはずが、気がつけば、さまざまなことを考えさせられる。そんな芝居である。だが、これは声高に何かを訴えるのではない。静かに、この国の過去と今と行く末を感じさせてくれる。そんな良質の2人芝居だ。この夫婦を通して見えてくる日本の戦後60年の歴史が3幕からなるこの小さな芝居を彩る。そうなのだ。これはあくまでも2人のある夫婦のお話なのである。そこを疎かにはしない。平岡秀幸さんが鬘を付け外しするのがいい。もちろんそれはただ笑わせるためではない。そんなこだわりがこの芝居の力だ。そこから芝居を読み解くこともできる。

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