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映画・演劇のレビュー

金原ひとみ『星へ落ちる』

2008-01-12 19:54:02 | その他
 短編連作というスタイルで4人の男女の3つの恋愛が描かれていく5話からなる作品。①男同士のカップル、②男女のカップル。①の男と②の女が恋愛関係になる。唯一の女である②の女を基点として、彼女の話から始まり、彼女の話で終わる。恋愛の底なし沼に陥った男女のドロドロが描かれる小説。

 彼女は彼を手に入れる。しかし、彼女の不幸はそこから始まる。一緒に暮らし始めたことで以前以上に彼の存在が遠くなるのだ。なんだか、恋愛だけしか見えない人たちって不幸だな、と思う。こんなことでは生きていけないし、心休まるものがない。

 この小説を読んでいた2日間、とても不幸せな気分になってしまい、僕の日常生活まで暗くなった。さっさとこんな小説は忘れてしまうに限る。

 ①②の捨てられたほうの男たちのそれぞれの話なんて、読んでいて吐き気がした。そこまで恋愛に依存しなくていいだろ、と思う。でも、まだこいつらは主人公の女に較べればましかもしれない。この全身恋愛女は、仕事まで恋愛小説を書くことらしい。この女と作者がオーバーラップするように仕掛けられてある。もちろんあくまでもそれはこの作品の仕掛けであり現実と言うわけではあるまいが、作為的に作られたものとしての距離感がここにはないので、単純にすべてが現実のまま書いているのではないかと思わせるものがある。

 それはこの小説の直前に読んだ『洗面器の音楽』とは全く違うのになんだか似ている。同じようなスタイルを踏んでいるこの2作品だが、藤谷浩は明らかにこの虚構の世界を楽しんでいる。それに対して金原ひとみにはそんな余裕はない。もちろん余裕がないというスタイルをわざととっているのかもしれないが、、このいっぱいいっぱいの小説は切実過ぎて息苦しい。

 全身恋愛人間の小説なんて初めてだが、それがこんなにも気分を悪くしてしまうのだなぁ、と思わされ驚く。改めて恋愛なんてものの恐ろしさを実感させられた2日間であった。

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