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映画・演劇のレビュー

よしもとばなな『ジュージュー』

2012-01-28 09:07:06 | その他
 このカバーイラストには驚く。なんて趣味が悪い、と思った。これだけで読みたくはなくなる。でも、そんな風に思う人はきっとお断りなのだ。この小説は。このイラストを見た瞬間「嬉しい」と思えるような奇特な人だけを対象にしたマニアックな小説なのである。

 でも、当然よしもとばななのファンはちゃんと手に取り読むんだろうな。そして、このイラストの意味を知る。そうすると、ここに込められた彼女の想いに共感する。僕はまるで知らなかったけど(と言うか、僕はいろんなことを知らなさすぎるのだが)これは朝倉世界一さんの漫画『地獄のサラミちゃん』らしい。ステーキハウスを舞台にしたこの小説は、同じようにステーキハウスを営むその漫画が大好きだった母親と、主人公の女の子のお話なのだ。でも、母親はもう死んでいるけど。その漫画にある自由な心の飛翔が今回のテーマで、そのためにサラミちゃんのイラストを表紙にしたのだそうだ。いかにも、ばななさんらしい。この単純さ。

 小説自身は、いつものお話で、疑似家族も含めた本当の家族の物語を求める人たちの物語だ。正直言うと、またか、と思う。でも、よしもとばななはこういう話が大好きでそれって『キッチン』の頃から全く変わらない。ここまで同じ話を延々と飽きることなく何度でも書けるって凄い、かもしれない。

 同じ場所でずっと変わることなく同じ味を提供し続けること。やがてそこがなくなる日が来るのかも知れないけど、それまでは自分たちはここにいる。そしてここにやってくるお客さんにいつも通りの変わらない味と安心を提供する。みんながそれを望むのなら、それが一番なのだと思う。自分たちもそれを望んでいる。それって、まるでよしもとばななの小説そのものではないか、と思う。


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1 コメント

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Unknown (ジュリ)
2012-09-22 16:00:16
よしもとばななさんの作品は、同じような設定でも飽きません。やさしくて、美しくて、読んでいて私までやさしい気持ちになれます。
「ジューシー」はまだ読んでいないので、今度読んでみようかな。
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