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映画・演劇のレビュー

『パラダイスキス』

2012-01-20 21:14:19 | 映画
新城毅彦監督の映画は好きだ。でも、さすがに今回だけはつき合いきれない。マンガの映画化だからではない。ここまでマンガそのものとして、映画化するのは、作り手の意図なのかも知れないが、それにしても、ここまで徹底してやられると、あっぱれと言うよりもバカバカしくって、見ていられない。ペラペラのマンガ世界を映像化して見せると、マンガの読者は喜ぶのかも知れないが、一般の観客はひく。別にリアリティーなんかいらない。だが、見ている人が、主人公に共感し、応援したくなるような映画にして欲しい。主人公の悩みが、自分のものとして受け止められなくては映画は成立しないだろう。絵空事の嘘の世界であろうともそこだけは嘘をついてはならない。

 今までの彼の映画には、その守るべき一線がちゃんと守られていたから感動できたのである。『ただ、君を愛してる』の不思議な少女だってそうだった。あの宮崎あおいが演じた女の子はまるで子供にしか見えない。でも、あんな大学生がいてもいいじゃないか、と思えた。だから、あの不思議な話が成立したのだ。成長しない病気を抱えた彼女が大人の女になるなんていう信じられないような話を信じさせた彼が、こんなどうとでもなりそうな話なのに、それを信じさせられないはずがない。なのに、こんな映画を作る。何がどうなったのか、訳がわからない。

 大学受験前の有名私学に通う高校生の女の子が、ファッションデザイン専門学校の卒業公演のモデルの仕事を引き受ける。そこで自分の夢を見つける。まぁ、どこにでもありそうなありふれた話だ。これがこの大ヒットしたマンガの基本となるストーリーラインらしい。そこを変えることは出来ないし、そんなこと必要ない。だが、そんな安易な話が、読書の感動を引き起こした理由がどこかにあるはずなのだ。せめて、新城監督はそこをちゃんと捉えて見せる義務がある。僕たち観客を納得させるのが彼の仕事なのではないか。原作のファンにサービスするのは当然だが、それ以外の観客を無視してはならない。


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