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映画・演劇のレビュー

『ももへの手紙』

2013-02-08 22:34:28 | 映画
 これはとても惜しい映画だ。瀬戸内海の小さな島を舞台にして、父を失った少女と、その母親が再生していくまでの小さなドラマが、3人の妖怪たちとともに描かれていくアニメーション映画なのだが、風景がとても美しく、そんな中で、というかそんな場所で、暮らすことになる主人公のももの日常生活を実に丹念に描いてある。だから、ただそれだけで十分満足できる映画なのだが、それだけ。

 ドラマに全く奥行きがなく、表層的なのだ。とても丁寧に作られた瀬戸内の自然と田舎の風景。古い家、町並み。ロケーションは見事だが、それに見合うだけのドラマがあれば傑作になったかもしれない。3人の何もしない間抜けな妖怪たちの造形には、まるで仕掛けがないし、少女の心の成長のドラマとしても、物足りない。

 単純なお話が悪いのではない。『となりのトトロ』なんてあんな単純なお話なのに、あんなにも感動出来た。あそこにあって、ここにはないものは何なのか。妖怪たちがトトロのように可愛くないからか? そんなことではない。あまりにあっさりと作られ過ぎたのが、問題だったかもしれない。作者はきっと仰々しい映画にしたくはなかったのだ。ただ、ここにきて、ここでの生活から、少女が少しずつ変化していく姿を切り取りたかっただけ。本当言うと、妖怪も必要なかったのかもしれない。でも、これはアニメ映画で、お話も、こういう定番を踏む。そうである以上、アニメであることを武器にした「何か」があってもいい。

 少女の成長物語として、お話に意外性がない。ももという女の子が、妖怪たちと出逢い、この町の様々なものや、人々と触れ、変わっていくさまが少しずつ心に沁みて来たなら、きっと感動出来たはず。でも、これではなんかインパクトがない。それも作者の意図だ、と言われたらどうしようもないのだけど。



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