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映画・演劇のレビュー

コトリ会議『社会のまど解放戦線、秋』

2014-12-31 09:43:48 | 演劇
年の瀬押し詰まった30日、京都までコトリ会議を見に行く。これが今年最後の観劇になる。

2014年の関西小劇場界は、コトリ会議の年だった。2月の大作『こりす池のともぞう』は今年のベスト作品だったし、続くアイホールを公演場所にした5月の2本立て公演(しかも、ちゃんと長編で2本)も素晴らしかった。そして、この年末最後の初の京都公演である。

 KAIKAには初めて行った。こういうスペースは好きだ。こじんまりとしていて、使い勝手がよさそうだ。こんなスペースがコトリ会議にはちょうどいい。今年の公演場所となった2か所は彼らのホームグラウンドではない。アウェイ感漂う大きな小屋での戦いだった。でも、もちろん、完全勝利を収めた。しかし、本来の魅力はこういう小さな小屋でこそ発揮される。

そして、想像通り、見事やってくれた。今年最後のお芝居がこんなにも素晴らしい作品だったのがうれしい。終わった後、山本さん(もちろん作、演出、今回は久々で主演の山本正典さん)に「すごい。すごい、」とバカみたいに連呼してしまった。なんだか、恥ずかしい。

山本さんの自伝的作品だ。こういうストレートなラブ・ストーリーを彼が作る。(今回はなかなか筆が進まなかったんです、と言ってたけど、わかる気がする。テレだけではない。自分にどこまで正直になるのか、そのバランスが難しいからだ。)幼い頃、好きだった女の子。でも、もう20年以上会ってない。いつも一緒にお嫁さんごっこしていた。だから、彼は彼女と何度も結婚している。でも、久しく思い出しもしなかった。そんな彼女から手紙が届く。その日の夜中に、本人が持ってきてくれた。夢の便りだ。そしてそれは彼女の訃報。

その直後、母親からの電話を受け取る。「となりのユキちゃんが死んだ」と。もう何年も実家には戻っていない。大阪で劇団をしていて忙しいから。でも、翌日、彼女の通夜のために実家に戻る。

30歳になった自分。アルバイトをしながら、芝居をしている。そんな彼を母親は心配しながらも、温かく見守る。ユキちゃんは交通事故で死んだ。大好きだった犬のポチごろうが死んだときだって帰らなかったのに、と母親は言う。だんだん時空が捩れてくる。彼を迎えた母親はなぜか36歳のあの頃の母親で、夜中(なんと3時だ!)に訪ねてくる高校時代の親友竹田は、夜明け前の越前海岸を見に行こう、という。なぜ、夜中なのか。さらには、時速20キロで安全運転をする車を追い抜いた女が、その後なぜか、彼らの車に激突する。ぶつかったのは彼の高校の頃の彼女だったスンちゃんだ。彼女も車に乗せて(病院に行こうとするが、大丈夫だ、と言う)家に戻る。竹田はユキちゃんを轢いた犯人なのか、という問題も浮上する。(これはミステリではないから、そんなことはどうでもいいのだが。)

 どうやら、すべてが夢の中のお話のようなのだ。

だが、そんなことも、どうでもいい。6歳のボクや、ポチごろうが、あの頃の思い出を誘発する。思い出の中を旅する。若かった母親、あの頃のユキ姉ちゃん。

彼女の死をきっかけにして、今の彼女に誘われて、帰郷した。もう記憶のかたすみにすら居なかったのに、どうして思い出したのか。母からの電話だけが真実なのだろう。いや、死んでしまった彼女がここにやってきたことも真実なのだ。若くして死んでしまった彼女へのレクイエム。彼女には2人の子供がいたこと、幸せに結婚したこと。だから、明日、確かに彼女の通夜に行こう、と思う。それだけは、事実だ。

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