漱石、清張、池波正太郎、久保田万太郎、芥川。今回取り上げられた作家たちだ。主人公の田川美希は出版社の文芸編集部にいる。彼女が作家たちのささやかな謎に挑む連作。お父さんはラストでアドバイスをくれたり、さりげなく答えを教えてくれることも。
この最後にさりげなく登場して来て場をさらい涼しい顔をしている父が素敵だ。市井の古書マニアの元高校教師。隠居して好きをしている。だけど凄い博識で美希の疑問を軽くかわす。世の中にはこんな巨人が密かに隠れている。取り上げられた5人の文豪の逸話も楽しいが、蘊蓄を傾ける美希の周辺の人たちもいい。作家先生たちが先達のゴシップをほじくり返して、疑問を投げかける。それに美希と後輩である李花が立ち向かう。
冒頭の漱石の「月が綺麗ですね」事件から、清張の『点と線』失敗作問題を摑みにして、芥川の『羅生門』の漱石へのオマージュ問題まで。蘊蓄の数々。益田ミリのイラストも楽しいし。満足の一篇。