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映画・演劇のレビュー

藤田宜永『女系の教科書』

2018-03-05 23:11:31 | その他

 

カバーイラストを見て、これは読みたくないな、と思った。内容も含めての話だ。60代前半の男性が主人公だ。リタイアして、今では週に2度カルチャーセンターで小説の書き方を教えている元雑誌編集者。妻に先立たれて子どもたちと同居している。女ばかり。怒濤の3ヶ月間のお話。自分の5年後を見ている気分にさせられる。90になる母親の介護の問題も抱える。いろんな状況が今の僕と同じで、カバーイラストのじいさんは他人から見た近未来の自分の姿なのか、と思うと辟易させられる。

 

読む本がないわけではないけど、勇気を出して読み始めた。最初はイヤだったけど、だんだん載せられてきた。藤田宜永なので、上手いのだ。ストーリーテラーだから、読者を乗せるとあっというまでラストまで連れて行かれる。大家族だからこそのよさが描かれているのは小路幸也と同じで、東京の下町を舞台にするのも同じ。深川が舞台だ。『東京バンドワゴン』よりはリアルだ。あれは、古きよき日のメルヘンだけど、これはもう少しリアルなメルヘンだ。まぁ、どっちもおとぎ話であることに変わりない。

 

お父さんと娘たち、孫たちも含めて、同居している娘夫婦と、近所で暮らす娘に、姉たち。女ばかりに囲まれて、悠々自適の毎日に波風が立つ。センターの生徒の旦那さんが乗り込んできた。妻がエロ小説(三島由起夫の『美徳のよろめき』『愛の渇き』なんだけど)にうつつを抜かしているのがけしからんというのだ。この暴力オヤジ(昔ながらの頑固親父)との諍いからスタートする。

 

老いを迎えること、家族の問題という「いかにも」のお話なのだが、「こんなふうに生きれたならいいな、」と思わせる。少し元気にさせられる小説だった。毎日惚けていく母親と向き合っていると、心がささくれ立っていくけど、あんまりピリピリしても何もいいことはない。今ある現実と向き合いながら、楽しく生きていくしかないよな、なんて思う。

 


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