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映画・演劇のレビュー

芝居屋さんプロデュース『トーフの心臓』

2019-10-11 20:51:47 | 演劇

 

全体的にテンポが遅い。演出の黒澤隆幸がとても丁寧に見せていくからだ。だから台詞も聞き取りやすい。わかりやすい。この家庭劇を勢いで見せたオリジナルに対して、今回はじっくりと彼らの関係性を描き、何がここで起きているのかをきちんと伝えていこうとする。ただ、描かれていることが理詰めではないので、丁寧に見せていくことが作品を深化させていくことには必ずしもならない。それどころか、随所に作品の穴が見えてくる始末だ。ただ、関係性を明確にすることで、彼らの立ち位置がはっきりし、作品が見やすくなったことも事実だろう。その辺の判断はバランスの問題であり、難しいところだ。演出の意図は明白であり、その判断は心地よい。

 

田口哲を中心として、くじら企画のレギュラーの面々を随所に配したキャストは安心感のある芝居を見せてくれる。そういう面ではこれは大人の芝居だ。まだ30代前半だった大竹野正典が描くコミカルな大人の恋愛劇を落ち着いた第3者の大人の視点からじっくりと見せる芝居になった。トーフの心臓を持つ2人の関係をどう見せるのかがポイントになる。ズブズブと突き刺さり、かき混ぜるとグチャグチャになる。そんな混沌を大竹野は軽いタッチで見せた。だが、ラストで一転して重く衝撃的な展開を用意する。

 

それだけに、今回のあのラストの改変には唖然とさせられた。あんな形での改変もありなんだ、という新鮮な驚きだ。とても怖いラストが、見事にショーアップされ、なんだか祝祭的な空間へと変貌していく。それは作品の誤読ではなく演出の強い意志による改訂である。そうすることによって、カドクラとミズタの20年にわたる熱い想いがひとつになる。2人のキスシーンがあんな形で避けられたにもかかわらず、2人の想いはさらに深いものとして、そこに残る。これは男同士の恋愛という枠には収まらない。秘めた想いをどう昇華させていくのかが演出家に問われる、と言うのなら、黒沢演出は堂々とそこに答えを用意した。これはこれで潔い。

もちろん、オリジナルのあの恐怖が薄れてしまったことは否めない。あの衝撃のラストは妻による包丁の音へと収斂されていく。二人の罪が断罪されていく瞬間、こころは凍りつく。あの怖さが損なわれてしまうのは残念だが、こんな見せ方もありだろう。

 


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