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映画・演劇のレビュー

Gフォレスタ『朝 殺人に気づく』

2008-07-03 11:29:00 | 演劇
 スタイリッシュで、落ち着いた雰囲気。とてもいい。商業演劇のよう高級感すら漂わせる。美術、衣装、役者たちの余裕のある演技。そういったことのひとつひとつに対して、丁寧な目配せがなされている。それだけに、ラストの詰めの甘さが残念で仕方ない。

 2部構成2時間10分の大作だ。こういうミステリーものは仕掛けのおもしろさよりも、どれだけ魅力的な人間像を作り上げることが出来るのか、そこに尽きる、ということに気付いた作、演出の丸尾さんは、6人の主人公の、それぞれのすれ違う思いを丁寧に切り取っていく。これまで散々いろんな仕掛けに挑戦してきて、結局この当たり前のことに気付いたというようなことが、チラシに書かれてあったが、なんとなくその一文を読んで、とても嬉しい気分にさせられた。厳密に言うとこう書かれてある。「演劇という『嘘』で塗り固められた世界に紛れ込んでいる『現実』、それが面白さへの触媒なんじゃないかと(思う)」

 頭で分かることと、体でわかることとは全く違う。幾度もの試行錯誤を経て、ようやくそのことに辿り着いたことって強い。その強さが今回の作品の中で、どう生かされているのか、ワクワクしながら見た。

 人物を絞り込んだことで、それぞれの背景となる心情がきちんとフォローしてあるのはいいのだが、事件の鍵を握る蘭子という女を全く描かないのは如何なものであろうか。彼女を象徴とするにはあまりに彼女の存在が事件全体を左右しすぎる。これでは彼女と駆け落ちしたのは誰なのか、というミステリー部分に意味がなくなる。彼女が不在のまま芝居が進行することにはなんの問題もないのだが、彼女自体がこんなにも見えないままで、謎解きに突入するのはルール違反ではないか。

 しかも、後半の解決編があまりに安直過ぎて辛い。芝居が終わった後、もうひとつのどんでん返しあるが、あれにはあまり意味はない。蘭子の全裸死体が発見されたというニュースはオチでしかない。彼女を殺したのは誰なのか、3人の男たちは共犯なのか、とか、そこまでは描きこんでいない。

 女たちのエピソードはよく考えられているが、ここも詰めが甘い。特に夢野が夫が彼が蘭子のもとに走ったと勘違いし、偶然やって来た昔の恋人(大阪新撰組の下村さん!)と寝てしまう、というエピソードはあまりに安直だ。しかも、その後夫が帰ってきてよかったと大喜びするとう展開は如何なものか。昔の恋人とのことは夫が心配をかけたから、それでちゃらとでもいうのか。シナリオライターと童話作家夫婦の話も、レストランオーナー(遊気舎の西田さん!)とその妻の話も、あまりにパターン化され過ぎており、正直言うとリアリティーない。だが、そんなことわかった上でそのパターンを通して個々の心情に迫るというのが今回丸尾さんが目指した方向性だったのだろう。そういう意味ではここまでなんとか緊張感を持続できたことは賞賛に値する。

 だからこそ、結局はラストの詰めの甘さに尽きるのである。6人が再会したところで、全ての謎が解ける、というのがミステリーの王道だが、そこで蘭子を巡る3組の男女の嘘と本当がどう暴かれるのか、ここにはきちんとしたストーリーの仕掛けが欲しい。

 

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