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映画・演劇のレビュー

劇団パンと魚の奇跡『劇団パンと魚の奇跡の踊り』

2011-11-08 23:14:23 | 演劇
こういう小さな芝居が僕たちの心をとても豊かにしてくれる。大きい小さいというサイズは、おもしろい、つまらない、とはまるで関係ないことだけど、本来、武器にはならないはずの作品の小ささを、作品の持つ力にするという試み(そんなうまく都合のいいことは起きないはずなのだが)は見事に成功している。

それは彼らが身体の持つ力を信じるからである。そこにある自分たちの体が無限の可能性を示す。舞台作品の力はそこに尽きる。彼らの身体がより身近であるためにも、こういうカフェ空間でワンステージ20人ほどの観客に限定して、手を伸ばせばすぐそこで手を取ることも出来るような圧倒的な存在感から作品が作られていくことは重要だ。役者たちも観客のひとりひとりの顔が見える。あなたとわたしはここで同じ時を共有している。その事実が大事なのだ。

これは会話劇であると同時にダンス作品でもある。その両者の幸福な融合が、演出である保木本佳子さんのアプローチだ。しかも、物語には明確なストーリーラインを用意しない。「世界の終わりに踊りましょう」というコンセプト。さらにこう続く。「大人達の世界は終わって、新しい子供達の世界が始まる」と。このチラシにある言葉をキーワードにして、自由に子供たちの空想は広がっていく。

 世界の終わりに、あなたたちは何をするのか? 蝉は7日間の命だけど、それが長いか、短いか、という問いかけからスタートして、もし、あと1日で世界が終わるとすれば何をするのか、を考える。自由にしゃべって、踊って、たわいないパフォーマンスを見せる。まるで無邪気な子供のお遊びのようなもの。だが、それがこんなにも、見る者の心を豊かなものにしてくれる。保木本さんの柔軟な姿勢が、4人のキャストとの共同作業を通してこの奇跡的な幸福を作り上げる。

世界が終わってしまうのに、それが幸福につながっていくって、どういうことなのか、と言われそうだけど、これは終末を描く芝居ではない。終わりは次の始まりなのだ。子供たちの想像する力が次の未来を作りあげる。

中田絵美子ちゃんの真っ赤な唇(まるで似合わない口紅がしっかり塗られてある!)がこの世界をアンバランスなものにしている。しかし、その背伸びが、この子供達の世界から、大人の世界への秘密の通路となる。ここから彼ら4人が、どこに向かっていくのかを、しっかり見守っていきたい。そんな気分にさせられる。未来は子供たちの手に委ねられている。子供はやがて大人になる。みんなで手に手を取って「ひみつの踊り」をしよう。Monikaによるこの主題歌がとても気持ちよくこの芝居の後押しをしてくれる。

2人ずつ4人の男女が性の垣根を越えてここにいる。ドラカンにいた佐野洋子さんの参加もうれしい。彼女の中性的な魅力が作品の幅を広げる。同じ意味で門田草くんの存在もそれを後押しする。ゲストであるこの2人と、中田絵美子ちゃん(女の子だから、「ちゃん」が似合う)と宮田圭洋さん(男の子なのに「さん」が似合う)というパンと魚の奇跡の2人とのコラボレーションがこの奇跡を作り上げた。チラシのコピーはこう続く。「世界の始まりに踊りましょう 秘密の踊りを踊りましょう」と。この芝居を見たみんなで、この素敵な秘密を共有しよう。


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1 コメント

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Unknown (keke)
2011-11-12 22:46:21
「劇団パンと魚の奇跡の踊り」にご来場いただきまして、ありがとうございました。
今回も素敵な劇評をありがとうございます。
関係者一同、喜んでおります。
これからも少しずつですが、3人で小さなおもてなしを作り続けられたらと思います。
そしてどんどん、新しいことに挑戦していきたいです。
今後もどうぞ、劇団パンと魚の奇跡をよろしくお願いいたします。

劇団パンと魚の奇跡
宮田圭洋
中田絵美子
保木本佳子
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