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映画・演劇のレビュー

有吉玉青『美しき一日の終わり』

2012-07-25 21:53:35 | その他
 とてもよく出来た小説である。心地よい夢のように人生が流れていく。50数年間を共に過ごした家との別れ。同じ時間を共に生きた弟との最後の1日。取り壊されることが決まった家で過ごす最後の時間。ようやく2人だけで、誰に気兼ねすることなく過ごす最後の1日。

 2人が出会った日から、今日までが順を追って回想されていく。とても丁寧に、どんなささいなことも、書き残すことなく、ちゃんと綴られていく。すべてが美しい想い出の1ページだから、取りこぼすわけにはいかない大切なものなのだ。

 美妙が、秋雨に出会ったのは、彼女が15歳の時である。7つ下の彼がこの家に引き取られてきた。彼は父親が他の女に産ませた子供で、母親を失くして、父がこの家に連れてきた。

 これはそんな姉と弟の生涯に及ぶ一途な純愛物語である。だが、2人はずっとお互いの感情を胸の内に秘めたままで生きる。お互いの気持ちは痛いほど分かっているのだが、そんな想いを相手にぶつけることは出来るはずもない。

 ひとつひとつのエピソードが胸に痛い。どうしようもない想いを抑えて、誰にも気付かせることなく、生きた日々が描かれていく。父にも、もちろん母にも、夫にも、娘にも、隠したまま、生きる。でも、時折どうしても垣間見えてしまう。必死で取り繕う。みんなも、そんな彼女に、そして彼に、気付かないフリをする。そうじゃなくては、すべてが壊れてしまうからだ。好き、という想いは胸の内にずっとある。認めることはできない。姉としての威厳をもって、大好きな弟を想う。弟もまた、そんな姉を尊敬し、敬愛する。恋愛感情なんかない、ということにする。ただ打ち消すのではない。お互いに本当の気持ちが、わからなくなっている。あたりまえのことだろう。

 昔、昔の物語。まだ、昭和だった時代。そして、時代は平成になり、やがて年を取り、あの日の少年少女は老人になる。でも、心はずっと変わらない。そんな美しいお話である。

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