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映画・演劇のレビュー

『ハナミズキ』

2010-09-02 21:07:48 | 映画
 とても丁寧に作ってあり共感できる映画になっていた。土井裕泰監督は、これまでも、ありきたりな話(『涙そうそう』)であろうと、荒唐無稽(『「いま、会いにゆきます』)であろうと、丹念な日常描写の積み重ねから、説得力のあるドラマを紡ぎ上げることに成功してきた。だから、今回のような単純な「恋愛もの」でも、きっと大丈夫だろうと思ったのだが、それにしてもよく健闘していて感心した。

 ここまで通俗的な話で、今時の子供たちを惹きつけることができるのかと心配したが、大丈夫そうだ。客もよく入っている。携帯小説の通俗性にはさすがに高校生でも飽きてきたのだろう。反対にこういうオーソドックスが好まれたことがうれしい。ここには大した話はない。どこにでもあるような恋愛がちょっとスケール大きく描かれる程度だ。北海道、東京、ニューヨーク、カナダと舞台は世界を股に駆けるが、それが極端な絵空事ではなく、このくらいならありえそうで、とりあえずは納得がいく。嘘くさくはない。(まぁ、細部の展開には目を瞑ろう)

 ピーター・チャンの傑作恋愛映画『ラブソング』のような作品を期待した。まぁ、あそこまでいくとは思いもしないが、あの映画のようなアプローチがなさていたなら、少しは期待できると思ったのだ。10年に及ぶ愛の物語をいかにリアルなものとして提示できるのかがポイントだ。自分たちの夢に邁進して、傷つき、それでも自分を信じて生きていくこと。確かにどこにでもあるようななんでもないことだ。

 受験勉強、仕事、遠距離恋愛、日常、生活。ドラマチックなことなんかそこにはない。この映画が描く「美しい自然」は、ただの絵はがき的なものではなく、彼らの生活が染みついた風景として提示される。撮影監督の佐々木原保志が捉えた風景は人間がそこにいて生活している風景だ。そこにある美しさをきちんと見せる。そこには嘘はないのがいい。確かに甘いお話だ。こんなふうにはなかなかいかないだろう。現実は映画ではない。だからこそ、この映画は「映画の王道」を行く。そこがいい。最後の再会シーンもことさら盛り上げはしない。自然体で見せる。そこが物足りないという人もいるかもしれないが、今時、こんなタイプの映画をつくるには、このくらいのさりげなさがなくては成立しない。

 新垣結衣と生田斗真のコンビは特別なところがないのがいい。それほどの美男美女ではないし、オーラのある大スターでもない。どこにでもいそうな普通の若者だ。(幾分、彼は、美男で、彼女はちょっとかわいい、その程度)それでなくては、今の時代には成立しないのだろう。100年続くような恋愛に今時の若者が憧れるのかどうかは、よくわからないが、10年続いた愛のドラマにはリアリティーを感じるのか。10年と100年では全然スケールが違うが、彼らの10年の軌跡をこの映画が追いかけることで、観客の共感を得たのなら成功だと言える。少なくとも、僕は嫌いではなかった。




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