習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『フルートベール駅で』

2014-12-27 22:28:52 | 映画
警官によって暴行を受け、射殺された22歳の青年の最後の1日(死ぬまでの24時間)を描く。その日は、1年の最期の日ではあるけど、いつもと同じ、変わりない「何でもない1日」のはずだった。殺されるなんて思いもしなかった。もちろん、いろんな問題を抱えてはいた。でも、そんなこと、多かれ少なかれ誰だって同じだ。

夜中に娘が寝室を訪ねてくる。寝られないから一緒に寝て欲しい、と甘える。朝、目覚める。食事して、保育園に連れていく。1日が始まる。

働いていたスーパーを首になった。母親の誕生日パーティーのために蟹を買った。今日は大みそかで、後少しで新年を迎える。友達と町に繰り出す。嫌なこともあるけれど、新しい年にはきっといいこともあると信じる。

それだけのこと。の、はずだった。だが、そうはならなかった。行きの電車の車内で、たまたま乗り合わせた人たちとカウントダウンした。だが、帰りの電車の中で悪い仲間と出会い殴り合いになった。でも、それだけで、警官から殺されるなんて、ありえない。

実話の映画化である。冒頭には実際の映像も出てくる。駅のホームで警官から暴行を受けている姿を電車に乗り合わせた人たちがビデオやケータイの動画で残している。どうしてこんなことが起きるのか。わけがわからない。でも、そんなことがあり得る。

この映画を見ながら、アメリカの警官は怖い、とか、そういうことを思うのではない。生きていると何があるか、わからない。あり得ないこと、なんてない。どんなことでもあり、だ。

ここに描かれる淡々とした描写の中から、僕たちは、「人が生きていることの意味」を感じさせられる。ここに描かれる出来事のあまりのさりげなさがなんだか胸に沁みてくる。それは彼がこの後、死んでしまうことを知ってしまったからなのだろうが、それだけじゃない、と言い切れる。それでも、そうじゃなくても、そのひとつひとつの描写は愛おしい。

ここに描かれるひとつひとつのなにげない描写の数々は、もちろんドラマチックから限りなく遠いものだ。でも、それがこんなにも胸に突き刺さる。そこには確かな真実がある。だからなのだ。


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