習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『エリックを探して』

2011-11-18 21:25:45 | 映画
 ケン・ローチがサッカー選手のエリック・カントナとコンビを組んで放つコメディー映画だ。こういう軽いタッチのハートフル・コメディーを彼が手掛けるのは初めてのことではないか。しかも、ケンローチ史上初のハッピー・エンドである。重く暗い現実をじっくり描くのが、いつもの彼なのに、そういう意味では今回はまるで彼らしくない。

 だが、作品の底に流れるものは、いつもと同じだ。今回も労働者階級の貧困が描かれる。最初の事故のシーンなんか、いつもと変わらない。主人公のエリックはオーバーワークから事故を起こし、でも、病院からすぐに仕事に行こうとする。家に帰ると、家の中は凄まじい状態になっている。2人の子供達はまともに働かず、たちの悪い友だちを連れ込み、ゴミ箱のようだ。彼らは後妻の連れ子で、2人を置いて彼女は7年前に家を出ていったままだ。これは最悪の人生だ。最初の妻との子供が自分の赤ちゃんの守りを頼んでくる。要するに彼の孫である。エリックは最初の妻ともう一度やりなおしたいと思う。孫の子守りをきっかけにして、再び彼女とつき合うようになるが。

 単純な話である。そこに、彼の勇気を後押しするため、なんとエリック・カントナ本人が登場する。主人公のエリックはカントナの大ファンで、部屋には彼の特大ポスターが張ってある。カントナはなんとエリックの妄想として登場し、彼にいろんなアドバイスをするという役なのだ。こういう「べた」な展開にケン・ローチが取り込むなんて、それだけでも驚きだ。でも、彼は今回この映画を楽しんでいる。この2人のエリックによるコメディーは爽快なラストに突入する。たまにはこんなのもありだな、と思う。実際のところ、あんな簡単に物事が解決するはずもないのだが、この映画ではあれでありにする。

 今ある最悪の現状を、自分たちの力で何とか乗り越えていこうとする前向きな姿勢と、それによって実際に現状を変えていくさまが描かれる。とても気持ちのいい映画になった。だから、これを受け入れる。それはそれでいいではないか。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 江國香織『金米糖の降るところ』 | トップ | 濱野京子『木工少女』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。