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映画・演劇のレビュー

浪花グランドロマン『寝られます』

2016-02-28 22:14:24 | 演劇

今週はこれ1本。これで今年20本目の芝居となる。最近、芝居をあまり見ない。見たいと思うものがあまりないからだ。でも、見たいものはちゃんと見ているから、それでいい。

浪花グランドロマンがテント興行を一時中断して、新たな覚悟で挑む本作は、なんと別役作品だ。小さなサイズのチラシもかわいい。今までのNGRとは一味違う作品に仕上がっている。

 

「不条理と不可思議たっぷりの、別役ワールドな2人芝居」とチラシにはある。ここでのポイントは「別役ワールド」のあとの「な」である。「の」ではなく、「な」だ。そこに浦部さんの今回の作品へのこだわりを感じる。あくまでもこれは「別役ワールド」では、ない。

作品の本質に迫るとか、そういうのではなく、もっとキッチュなものをねらう。しかし、それはこの本を使い自らの世界観を構築する、とかいうような高邁な理想でもない。(そんなことなら、オリジナルですればいい) これはまるで別役作品のような世界、とでも言えばいいのか。そんなほんの少し違う異相へと僕たちを誘おうとする。

佐野さんの舞台美術がすばらしい。(まぁ、今回に限らず彼の仕事はいつもいいのだけど)シンプルでこだわりのある空間作り。そこからこの芝居に入る。足の欠けた椅子とテーブル。ほんの少し斜めに傾いたベッド。女はこの部屋に男を招き入れる。彼は「寝られます」という看板に誘われてここにやってきた。一刻も早く眠りたい。だが、女はなかなか彼を寝させない。

足が悪い男に、「ありましたよ、あなたの左足」と言う女。先ほど電話がかかってきた。左足を見つけた、と。誰とも知らない人からの。たくさんの人形が雑然と積み上げて置かれてある。足のない人形もある。女はそんな人形を修繕している。男はようやくベッドに入り、眠ろうとするのだが、女の視線が気になって寝れない。女はずっと起きている。

こんなお話しの解説なんかしても意味がないのに、なんとなく、ここまで書いてしまった。シンプルなお話である。この芝居と同じで。そこにどんな意味が込められてあるのかを解説するのは、意味がない。そんなことより、この芝居の醸し出す空気を大事にしたい。

実に丁寧に作られてある。浦部さんは今回敢えてビジュアルから入る。ふたりの役者も彼の意図を汲んで、とても素直な芝居をする。内面なんか滲みださない。表層的な芝居である。まず何より関角直子さんの清潔感がいい。それは上畑圭市さんも同じだ。ふたりがこのなんとも不条理な世界(そりゃぁ、別役ワールドですから)をストレートに体現する。そこにはなんのこだわりもない。ありのままの自分たちがそこにいる。ここで話される不思議なせりふも彼らの口を通したなら、なんら不思議ではない。正しいものは彼らで僕たちはそんなふたりに誘われて、この世界の秘密に触れる。

 

理屈ではなく、ただありのままの世界をそこに見る。なんともすがすがしい不条理世界を堪能する。浦部さんがこんなにもシンプルでスタイリッシュな演出をするのだ。そして、それが今回の至上命令だ。意味なんかを超える真実がそこから見えてくる。こんなにもちゃんと出口の見える別役芝居はめずらしい。


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