あとわずかな時間の後、死んでいく運命にある妻、美緒子(武田暁)と、彼女の看病のためにすべてを投げ出す夫、五郎(紀伊川淳)、彼ら2人の物語である。3時間30分に及ぶ大長編。オリジナル台本(三好十郎)をカットすることなく、舞台化した。
これは傑作である。そして、きっと今年のベストワンとなる芝居である。それが深津篤史さんの桃園会での復帰第1作だったということを心から喜びたい。こんなにも優しくて厳しい、緊張感のある芝居が見れるなんて幸せなことだ。
生と死を描くとき、どういう切り口を見せるかが、一番の問題となる。死を描くからこそ、そこに命の輝きを描き切らなくてはドラマは成立はしない。やがて死んでいく妻を看取るとき、この作品は、そこに2つの「生」を高らかに歌い上げる。
1幕のラスト、親友の赤井の細君に赤ちゃんが出来たことがわかるシーン。出征前の挨拶にやってきた彼と彼の妻。病床の美緒子が、気を利かせて2人だけの時間を作ってあげようとするのだが、鈍感な五郎はまるで気付かない。この重い芝居の中で、ほんのちょっと浮かれた場面だ。そして、なんだか微笑ましい。あと2時間ほどで赤井は兵舎に戻らなくてはならない。もしかしたら、もう戻れないかもしれない。決して明るいばかりの時間ではない。そんな一時を軽妙なタッチで見事に見せる。
さらに2幕の冒頭、秘かに五郎に想いを寄せる京子(山本まつ理)の眩しい水着姿。ここで芝居は彼女の想いを描くのではない。そこにある命の輝きが眩しいのだ。芝居は、そこをことさら強調しない。さらりと流していく。上手い。
この2つのシーンがハイライトをなし、死んでいく妻と彼女にずっと寄り添う夫の静かな時間を際立たせる。この芝居は主人公2人を取り巻く人々と彼らとの群像劇だ。この2つのエピソードだけではなく、全編で、それぞれの人たちの2人への想いがくっきりと描かれていく。だから、3時間半がとても短く感じられた。ただずっとそこにいて、彼らを見守り続けたい。そんな気分にさせられる芝居だ。
五郎は残された時間の中で、1日でも長く生きてもらいたくて、すべてを犠牲にして生きようとする。人はいつか死んでいく。避けることは出来ない事実だ。でもそのことを受け入れ難いと思う。今死ななくてもいいじゃないか、もっとみんなと同じように生きて欲しい。寿命を全うして欲しい。でも、どうしようもないことはある。わかっていてもわかりたくはない。紀伊川さんがこの難しい主人公の想いを見事に見せきる。
単なるお涙頂戴のメロドラマになりそうな話だ。だが、深津さんの抑えたタッチの演出は、これをそんなものにはさせない。崇高な愛のドラマへと昇華されてゆく。役者では小母さんを演じた川井直美さんが素晴らしい。もちろん彼女だけではなくすべての役者陣がそれぞれ自分の仕事を見事にこなす。役者と演出との信頼関係がこの芝居を作り上げた。
これは傑作である。そして、きっと今年のベストワンとなる芝居である。それが深津篤史さんの桃園会での復帰第1作だったということを心から喜びたい。こんなにも優しくて厳しい、緊張感のある芝居が見れるなんて幸せなことだ。
生と死を描くとき、どういう切り口を見せるかが、一番の問題となる。死を描くからこそ、そこに命の輝きを描き切らなくてはドラマは成立はしない。やがて死んでいく妻を看取るとき、この作品は、そこに2つの「生」を高らかに歌い上げる。
1幕のラスト、親友の赤井の細君に赤ちゃんが出来たことがわかるシーン。出征前の挨拶にやってきた彼と彼の妻。病床の美緒子が、気を利かせて2人だけの時間を作ってあげようとするのだが、鈍感な五郎はまるで気付かない。この重い芝居の中で、ほんのちょっと浮かれた場面だ。そして、なんだか微笑ましい。あと2時間ほどで赤井は兵舎に戻らなくてはならない。もしかしたら、もう戻れないかもしれない。決して明るいばかりの時間ではない。そんな一時を軽妙なタッチで見事に見せる。
さらに2幕の冒頭、秘かに五郎に想いを寄せる京子(山本まつ理)の眩しい水着姿。ここで芝居は彼女の想いを描くのではない。そこにある命の輝きが眩しいのだ。芝居は、そこをことさら強調しない。さらりと流していく。上手い。
この2つのシーンがハイライトをなし、死んでいく妻と彼女にずっと寄り添う夫の静かな時間を際立たせる。この芝居は主人公2人を取り巻く人々と彼らとの群像劇だ。この2つのエピソードだけではなく、全編で、それぞれの人たちの2人への想いがくっきりと描かれていく。だから、3時間半がとても短く感じられた。ただずっとそこにいて、彼らを見守り続けたい。そんな気分にさせられる芝居だ。
五郎は残された時間の中で、1日でも長く生きてもらいたくて、すべてを犠牲にして生きようとする。人はいつか死んでいく。避けることは出来ない事実だ。でもそのことを受け入れ難いと思う。今死ななくてもいいじゃないか、もっとみんなと同じように生きて欲しい。寿命を全うして欲しい。でも、どうしようもないことはある。わかっていてもわかりたくはない。紀伊川さんがこの難しい主人公の想いを見事に見せきる。
単なるお涙頂戴のメロドラマになりそうな話だ。だが、深津さんの抑えたタッチの演出は、これをそんなものにはさせない。崇高な愛のドラマへと昇華されてゆく。役者では小母さんを演じた川井直美さんが素晴らしい。もちろん彼女だけではなくすべての役者陣がそれぞれ自分の仕事を見事にこなす。役者と演出との信頼関係がこの芝居を作り上げた。