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映画・演劇のレビュー

『最愛の子』

2016-02-13 19:31:01 | 映画

 

 

ピーター・チャンの最新作であるだけではなく、中国映画に進出した彼が、社会問題を扱い、大ヒットする娯楽映画としても成功し、観客の満足度も最高に高く、圧倒的支持を国内で受ける作品を手掛けた。その事実がまずいちばん興味深い。ヒットメーカーとして、この作品を手掛けたわけではないはずだが、いささかあざとい部分も含む。お涙頂戴映画と、紙一重。決して安易な映画ではないし、さまざまな問題を、いくつもの視点から描く重層的なドラマで、最後まで、緊張が途切れない。まさかの展開もある。(それが、お話をうまく作りすぎ、と非難される可能性も無きにしもあらず、なのだが)なんだか怪物のような映画なのだ。

 

彼がプロデュースした歴史アクション大作『十月囲城』を見たとき、これは凄い、と思った。大ヒットするのは、よくわかるし、こういう大作がヒットするのはいいことだ、と思った。恋愛映画の名手である彼があんなアクションを手掛けたことも驚きで、そして、驚くべき成果をあげる。それは『ウォーロード』にも結実していた。さぁ、次は何をするのか、期待して待つこと、5年。この作品である。でも、ずっと待っていた甲斐があった。驚愕の大作である。 

(実は『十月囲城』以降に『捜査官X』があったのを忘れていた。それから『十月囲城』は『孫文の義士団』というタイトルで公開されていた。そんなこんなは書いてから気付いた。))

 

これはすさまじい緊張感に貫かれた映画だ。そして、とんでもない映画だ。何も起きていない冒頭から、ドキドキさせられる。もちろん、僕たちはこの後すぐにこの少年が誘拐されることは知っているからなのだが、それにしてもこの淡々とした描写がここまで緊張感を生むのには驚く。むき出しになり、絡まりあった複雑な電線をいじる父親の姿から映画は始まる。そこから誘拐されて、必死に捜索し、見失う。まず、そこまでのドラマに圧倒される。だが、お話はまだ序盤でしかない。3年後、見つかり、救出し、そこからがこの映画の描こうとする本当のお話になる。しかも、それは一筋縄ではいかない。

 

後半、主人公が誘拐された子供の父親から、誘拐犯の妻であり、3歳から6歳まで少年を育てた女の話へとシフトチェンジする。ここから、映画はいくつもの視点を持つとんでもないお話へと変貌していく。単純な事件ではない。年間20万人にも及ぶ中国国内で生じる子供の誘拐事件。そこをスタートとして、ここで生じる様々な問題に映画は遠慮なく土足で踏み込んでいく。都市部の富裕層と農村部の圧倒的な貧困層。一人っ子政策の問題。被害者と加害者という垣根を越えて、この国の抱える矛盾点をあぶりだす。映画を見ながらこんなにも、ドキドキしたのは久しぶりだ。一昨年の是枝裕和監督の『そして父になる』をさらにパワーアップさせたような作品になっている。問題がどんどんひろがっていく。どこまで行くのか、と思わされる。解雇された若い弁護士の年老いた母親の介護問題とか、そこまで話を広げては収拾がつかなくなるよ、と心配になるほどだ。でも、怒濤の勢いで、すべてを1本の中に叩き込む。中国社会の抱える闇と混沌。そのすべてを描きたい、と思ったか。夫婦の離婚からスタートして、再婚した妻が再び、離婚するまでのお話でもある。子供を産むことができないはずの女が妊娠する。養子としてもらい受けようとした妹はどうなる。だいた、帰ってきたのは彼らの子供だけで、ほかの人たちの子供は今もみつからない。これは映画として傑作であるとか、そういう次元ではない。

 

 


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