習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

突劇金魚『金色カノジョに桃の虫』

2008-03-24 00:08:29 | 演劇
 原色をベースにしたカラフルな世界はいつものサリngROCKの世界である。サイケで乱暴、なのに見事な統一感がとられている。だが、いつものそんな空間で、展開していくお話のほうは、なぜかドライブ感がない。いつもならここから大きくコースアウトしていく、という場面でなぜかそうならないまま、先に進んでいく。

 日常のラインから大きく逸脱していく異形のものを描くサリngが、今回は、その日常というラインに踏みとどまったままの男女を描く。ドラマがとんでもない地平に踏み越えて行こうとするのを、自分の力でしっかりセーブして、踏みとどまっていくことで、あやういバランスを保つ。と、いってもそこはサリngである。主人公たちは人目につかないだけで、内面世界では平穏な日常を保ち続けているとはとても言えない。

 今回は特定の主人公を設定しその彼女を中心にしてドラマを動かしていくというわけではない。もちろん主人公は西原希蓉美演じるルミなのだが、彼女だけでなく傍役も含めてすべてのキャラクターが立つように考えられている。そして当然そこにいる誰一人としてまともな人間はいない。みんながみんなフリークである。しかし、彼らは必死になって現実の地平に止まって生きようとしている。

 ルミと沙江(なかた茜)は、ルームシェァリングして一緒に暮らしている。沙江は仕事を持っている。そして、恋人の柏原が大好きだ。彼と一緒に居るだけで幸せだ。いつも綺麗に化粧して、それを彼に褒められると嬉しい。ルミはフリーターで、ペットショップで働いている。家と店に往復だけの平凡な毎日。特別なことは何もない。そんな日々に少しイライラしている。ある日、街で偶然見かけたポスターに導かれ、そのポスターに書かれたギャラリーに行き、鴻峰というアーチストと出会う。彼の作る不気味なオブジェに心惹かれ、彼のアートの世界にのめりこんでいく。彼女は彼と助手であるマリコにお願いして、全身にタトゥーを入れてもらう。自分の存在自体を鴻峰のアートにしてもらおうとするのだ。

 芝居はルミと沙江を巡るお話と、ルミが鴻峰たちと過ごす時間が描かれていく。舞台となる世界はとても狭く、そこから話は広がっていくことはない。たった8人の登場人物が右往左往していくだけである。しかし、そのひとりひとりが、普通と異常の間で、大きく揺れていく。自分たちの内奥にそれぞれが闇を持っており、それが他者との比較、交流を通して見え隠れする。

 ルミのことが大好きで彼女をいつも追いかける鳥雄は、危害は加えないが悪質なストーカーである。彼の善意はかなり怖い。屈折したものは、いつも彼に寄り添っている姉の千鶴に向けられる。彼女への過剰な暴力行為により、彼は精神のバランスを取っている。姉もまた殴られることで自分の存在を認められたと思う。彼女はいつも肌身離さず持つ縫いぐるみを通してしか、人との会話が出来ない。そんな彼女を可哀想と思う沙江の恋人柏原は、あまりに無防備な状態で彼女と接するから、沙江は2人の関係に嫉妬する。さらには、柏原も暴力行為に目覚め千鶴だけでなく、沙江にまで、暴力を振るうことになる。鴻峰とマリコは近親相姦的な関係にあり、そこにルミが入ることで、微妙な三角関係が生じる。鴻峰は実は自分では作品を作れず、彼の作品はすべてマリコが作っていたことがわかる。彼女は彼から離れ、独立して作家活動しようとする。彼女に捨てられた鴻峰は何も出来ない。

 これは歪つで狂気を孕むそんな群像劇になっている。唯一の常識人として登場するルミの母親ですら、まともであればあるだけ異常に見えてくるくらいである。

 ルミと沙江の2人がお互いとどう向き合っていくことになるのか、とか、TVに全身タトゥーを施した動くアート作品と化したルミを通して歪んだ三角関係はどういう進化を遂げていくのか、とか、いくつもの問題をおざなりにしたまま芝居は終わっていくのには、少し欲求不満が残るが、そのことも含めてサリngROCKは今までの過剰な表現のエスカレートにセーブをかけることに成功している。

 考えてみればこの作品には異常なことなんか何もなかったのではないか、と思わせるくらいのさりげない仕上がりである。そうすることで僕たちはとても居心地の悪い不気味さに囚われることになる。そこが新しいサリngROCKの魅力となっていることも事実であろう。今まで以上に進化した彼女が次回作では何を見せてくれるのか、今から7月が待ちきれない。

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