これは西河克己監督の1959年作品だ。なんとこれは僕が生まれた年に作られた映画で、高校時代大好きだった芦川いづみさんが主演しているし、未見の映画だったから見ることにした。川端康成の原作を芦川いづみ主演で北原三枝、清水まゆみが三姉妹を演じる文芸映画だが、原作からは基本設定だけを使い、日活らしい(?)なんか生ぬるい映画に仕立てたようだ。で、わざわざ今見る意味はない。ただ先日西河克己監督記念館に行ってきたから、その記念で(ついつい)見ることにした。(なぜだかAmazonで配信されていたし)
無残な映画である。当時はこれでもよかったのかもしれないけど、今の時代にまるで意味を持たない。日本を代表する作家川端先生も当時さぞかし呆れたことであろう。後日西河監督が作った『伊豆の踊子』(吉永小百合、山口百恵主演で2本作った)はどちらもよくできていたし、あれで名誉挽回したはずだが。
これは初期の西河監督作品で、この後60年代に突入したから彼はさまざまな小さな(プログラムピクチャーの)傑作をものにすることになる。その中でも最高傑作は『草を刈る娘』だ。吉永小百合の代表作の1篇でもある。あれは高校生だった僕を魅了した作品だ。先日久しぶりで『若い人』を見たが、高校生の時にはがっかりしたあの作品が今の目で見ると、西河監督のよさが出た作品で、なかなかよかった。当時は原作とあまりにかけ離れていてショックだったが、あの頃の吉永小百合を主演にした日活青春映画の枠組みでは原作のような重くて暗い映画を作るわけにはいかなかったのだろう。石坂 洋次郎(今ではもう誰も読まないけど)の原作小説は素晴らしい作品だった。彼の数ある傑作の中でも最高傑作のひとつだ。ちなみに芦川いづみの最高傑作『あじさいの歌』も彼の小説の映画化である。石坂小説はほとんどといってもいいほどにあの時代日活で映画化されている。ただ『若い人』は70年代に桜田淳子主演で映画化されたものが素晴らしい。監督は河崎義祐。彼のデビュー作であり最高傑作『青い山脈』(片平なぎさ、三浦友和)も、もちろん石坂 洋次郎の原作である。70年代後半に見た東宝の青春映画は素晴らしかった。その世界を牽引したのがベテランの西河克己と若手の河崎義祐だったのだ。あの時代すべての東宝青春映画をリアルタイムで劇場で見たのはきっと僕くらいしかいないのではないか。(なんてね)あの頃同時に60年代の日活青春映画を10年遅れで見ていた。ただ、そのほとんどはTVで(有名な作品は名画座で見れたけど)見ることしかできなかったのは悔しいけど、70年代後半10代の頃、映画館で過ごせたのは幸せだった。
さて、芦川いづみの話だ。当時の日活映画のヒロインで吉永小百合の次に好きだったのが彼女だ。(ちなみに3位は和泉雅子。『非行少女』は素晴らしい映画だ)芦川いづみが出ていることと、このタイトル。そして、西河克己監督作品、とその3つが揃ったから、これを見たのだが、冒頭の主題歌が流れた瞬間から見るのをやめたくなった。お話のつまらなさ。そのくせ、時々なんだか大胆な展開にびっくり。(なんと酔っ払った彼女を婚約者がレイプするシーンがあるのだ。もちろん、部屋に引き込むところまで、だが)お金持ちの婚約者と貧乏な青年の間で揺れる心が描かれるという定番のはずなのだけど、あまり心地よくないのは、貧しい青年があまりに愚かでこんなバカに心惹かれてはいけないと思うからだろう。最悪男二人の間で心を乱すなんてこの女もバカ、と思うしかない。そんな役を彼女は嫌々演じさせられている。
なんとラストシーンは、若い二人が結ばれました、ではなく、芦川の両親が仲直りしてふたりで歩くシーンで幕。あきれてものも言えない。1959年という時代はこんな時代だったのか(笑)。