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映画・演劇のレビュー

濱野京子『レガッタ! 水をつかむ』

2013-02-21 21:56:47 | その他
 濱野京子の新作だ。しかも、久々の青春小説。さらにはスポーツ物で、高校生が主人公だ。これを読まずして、何を読む! と鼻息も荒く、本を手にする。ただいつものことだが、YA小説なので、カバーとか、イラストとかが恥ずかしい。電車の中で読むのは、ちょっとはばかられる。まぁ、一瞬で読み終わったからいいけど。

 そんなことより、いつもの彼女の作品と較べると、この作品の出来があまりよくないことのほうが気になる。どうしてこんなことになったのだろうか。ボートに対しての取材が浅かったとか、そんなことはよくはわからないが、話自身があまりにパターン通りで、つまらない。とりあえずは及第点の小説だが、彼女がこのレベルのものを書いても、それでは僕は満足しない。あたりさわりのない子供向けの青春小説なんかで、済まさないで欲しい。

 今回はボート部だ。埼玉の女子高を舞台にして、高校に入って、初めてボートと出会った主人公が、何も知らないまま、部活に参加し、ボートの魅力に取りつかれていくという定番。マイナースポーツは彼女のパターンだし、知らない世界を知れるのは、悪くはないけど、それだけではつまらない。大体、ボートは既に『がんばっていきまっしょい』で、描かれている。小説としては、先行するあっちに、これはかなり水をあけられた。

 この小説の魅力は1年間のドラマが、とてもあっさりと描かれてあるところにある。人生の入口にたったすべての高校1年生たちのための小説になっている。だから、別にボートでなくてもいい。どんなスポーツでも通じるドラマが、ここには用意されてある。それが、魅力であると同時に、この小説の弱さだ。ここには特別の輝きはない。でも、最初から濱野さんはそれを望まなかったのかもしれない。反発しあいながら、最後には心通わしていく、という黄金のパターンも踏襲される。だが、そこに特別なドラマは作らない。それは密かに付き合いだす男子高校生とのエピソードも、である。どこにでも、誰にでもあるお話として、さらっと挿入される。

オールを持ち、ボートを漕ぐ。みんなの心が一つになり、オールが水をつかむ。強豪校のボート部。インターハイの常連校。厳しい練習。でも、好きだから。こういうパターンの展開を外さず、最後まで、パターン通りの小説を作る。その先にあるのは、ありきたりの青春だ。だが、それは普遍的な、誰もが経験し、大切に想うものだ。この小説は青春の入口に立つ子供たちのための、指南書なのかもしれない。ここには、ちゃんと夢を見て、その夢を実現して欲しい、という作者の願いが込められてある。それを素直に受け止めよう。

僕の学校にも、もうすぐ新しい1年生がやってくる。たくさんの夢を心に抱いて、思い切り高校時代を楽しんで欲しい。きっとそこには楽しいことがいっぱいあるのだから。




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