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映画・演劇のレビュー

『空母いぶき』

2019-06-10 20:48:32 | 映画

 

この大作映画がよく出来ているのは、これが単なる娯楽アクション映画ではなく、政治的な問題を扱うからでもなく、(もちろん、その2つの案件をちゃんと満たしている)これがふたりの男の生き方を対比させながら描いた点にある。群像劇であるにもかかわらず、主人公は同期の西島秀俊と佐々木蔵之介に焦点が当てられる。自衛隊に入り、お互いエリートコースを歩み、空幕と海上と別の部署に入った彼らが艦長と副艦として、空母に乗り込む。お互いを尊敬し、信頼しながらも自らのプライドを賭けライバルとして、対峙する。目の前の有事と向き合い、真反対の立ち位置で、それぞれの想いを大切にしながら対立する。だが彼らは反駁するのではない。國を思い、国民を守るために何を成すべきかを考え、行動する。ふたりとも正しい。でも、反対に立場にあることも事実だ。そんな関係が明確にあると、映画は実に生き生きしてくる。

 

単なる戦争アクションではない。映画は派手な見せ場もちゃんと用意しながらも、それだけには収まらない。ポリティカル・フィクションだが、娯楽活劇でもある。そういう意味では『シン・ゴジラ』に似ている。だが、あの映画との違いは、先にも書いたように、これがまず2人の男たちの対決になっているところだろう。彼らはお互いを尊敬している。自分にないものを持つ相手の存在に一目置いている。だからこそ、負けたくはない。ある意味で彼らはコインの裏表だ。

 

一触即発の危機に臨んで、どういう選択を取るかによっては、「戦闘」は「戦争」へと広がることになる。戦後日本が守り続けたものが、脅かされる。まず、敵に死傷者がでる。初めて自衛隊員から死者が出る、戦闘になる。どんどんエスカレートしていくなかで、何をどうするべきなのか。総理の苦渋の選択という政府の対応もちゃんと描かれるのだが、決断を強いられる現場の緊張に重点が置かれる。さらには、とあるコンビニを通して国民目線での対応も描かれる。真意の見えない敵の対応も含めて、さまざまな視点から、今現在、十分に起こり得そうな危機的状況がリアルに描かれる。

 

 

 


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