フランスに揺られながら DANS LE HAMAC DE FRANCE

フランス的なものから呼び覚まされることを観察するブログ

J'OBSERVE DONC JE SUIS

映画と言われて思い出すこと EN ECOUTANT LE MOT CINEMA, ...

2006-03-01 00:04:14 | 映画・イメージ

もう3月である。時間は流れている。われわれを気に掛ける気配はまったくない。先日、さなえ様から映画についてお話を、とのコメント・TBをいただいた。今日は、「映画」 と聞いて思い出されることについて書いてみたい。

映画と言えばまず思い出すことがある。子供の頃、何歳だったか今ははっきりしないが小学校に入る前だったような気もする。ディズニーの「ダンポ」を見に連れて行ってもらった。その時はおそらく2回目だったのだろう。筋書きを知っているので横にいた弟か誰かにこの次に何が出てくるのかを得意げに話していた。その時、静かにしろ、という声が聞こえた。その時の戸惑い、気まずさ。

中学、高校時代はハリウッド映画である。特に予告編で聞こえる語りの深い声に痺れていた。大学時代は授業をサボって怪しげなものも見に行った記憶がある。その中にベッドからすっくと起き上がる柄本明もいたが、今や素晴らしい役者になっている。存在感あるその姿を見る時、いつも彼との最初の出会いが思い出され、思わずにやりとする。それからやけに興奮して見たものに、大島渚の「日本春歌考」がある。筋はまったく覚えていない。

ボストン時代に鮮明に覚えている映画がある。ボストン郊外まで車を飛ばし偶然見つけた映画館で見たジェームズボンド映画 "The Spy Who Loved Me"。海の中で繰り広げられる活劇だったが、覚えているのはその内容ではない。始まってすぐに聞こえてきたカーリー・サイモン Carly Simon が歌う主題歌、Nobody Does It Better。この曲を聞いた途端に完全に捉えられてしまった。突然襲われた感じである。それを聞いた時に、体が、精神が完全に解放されて天にも上る気持ちになったのだ。あるいは海の中をゆっくりたゆたっているような気分に。

それからカーリーの歌をかためて聞いた記憶がある。ついでに彼女の連れ合いでもあった、力なく歌うジェームズ・テーラー James Taylor の音楽も一緒に。ボストンでの経験を再現すべく何度か試してみたが、その感覚を蘇らせることはできなかった。現在を完全に断ち切らないと難しいのだろうか。一人で広いところを歩きながら自分の中を過去に完全に置き変えて聞いてみると、ひょっとするとその感覚が蘇ってくるのかもしれない。

ニューヨーク時代には、当時お付き合いしていた女性と最初に見に行った映画が "Altered States"。不思議な映画だった。と同時に、終わった後雪の舞い落ちる二番街だったか、ゆっくり歩きながら感想を話し合っている時、それまでの鬱屈した気分が晴れていったのを思い出す。また三番街の映画館で見た "Arthur"。Dudley Moore, Liza Minnelli, John Gielgud などが出ていて、いい映画だったと思った記憶があるのだが、内容は思い出せない。そして今でも口を付いて出てくるのがクリストファー・クロス Cristopher Cross が気持ちよさそうに歌っていたテーマ、"Best That You Can Do"。最高によかった。月とニューヨークの間に捕まったら何をする? 一番いいのは恋をすること。

When you get caught between the moon and Nw York City
I know it's crazy but it's true
If you get caught between the moon and New York City
The best that you can do
The best that you can do is fall in love

こんな設問を大の大人がするのがアメリカ。発想が大胆で自由でなかなかよい。

話は飛ぶが、アメリカには変に枠に囚われないで考えられる人が多いということを感じていた。何かに囚われながら日本で生活していた私は、それを感じる度に嬉しくなったことを思い出す。人間の可能性を感じたからだろう。そんなに枠をはめる必要はないのだよ、と自分に言い聞かせることができたからだ。今でもその感触が得られると嬉しくなる。その人間が好きになる傾向がある。

今回、アメリカにいる時にもヨーロッパ産の映画を結構見ていたこと、そして見終わった後、味わったことのない疲労感が常に残ったことも思い出した。それが最近ではフランス映画に凝っている。人間の嗜好などいつどのようなことで変わるのかわからない。今のところ、特に印象に残っているのは、フランスに触れ始めた当初に見たジャン・クロード・ブリッソー Jean-Claude Brisseau の作品群。こちらは音楽よりはそのお話と映像。本当に不思議な世界に迷い込んでしまったと思ったものだ。そしてその世界に慣れるのに1年以上かかったのではないだろうか。今ではハリウッド映画を見ようという気さえ起こってこない。

他にも私の中に埋もれている映画は山ほどあるのだろう。今日のところはこんなところである。違う時間と場所に身を置くと別の思いもかけない映画が呼び醒まされて出てくるはずだ。また年齢とともに感じるものが変わってくる。エージングのよい点は、それを味わうことができることなのかもしれない。人間にはそれだけ多種多様なものを受け入れる受け皿が揃えられているとすれば、以前にも触れたが、そのお皿をできるだけ使っておきたいものである。

いずれにせよ、今回さなえ様のお誘いに乗って脳の中に少し探りを入れてみたら、これだけ出てきた。面白い機会を与えていただき感謝したい。

コメント (7)
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